前半の海


□オマケ短文その2
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 ある昼下がり。そんな時間には珍しく甲板でも展望室でもなく男部屋にて、お腹をすっかり床につける格好で寝そべるゾロが本を眺めていた。そこへなにげなくサンジが入ってくる。

「おう!こんなところに一人か。ラッキー♪」

「………ラッキーってなんだ」

 本から目を離すこともなくゾロが言葉を投げた。

「べーつーにいー。昼間から二人きりになれることなんてあまりないからな。今ここに来てみてよかったなァと……そんな意味だ」

「…フン」

 呆れたように鼻を鳴らしたゾロだが、その耳が赤くなっているのが可愛いくてサンジを嬉しがらせた。

「で?ま〜た『筋肉とは何か』みてェな本読んでんの?」

「………。おれは『筋肉トハナニカ』っていう本を読んでたことは一度もねェけどな」

「大筋で言やあそんなようなモンだろうが」

 テキトーなことを喋りながらサンジが近づいてきたと思うと、ゾロの上にほぼ同じ体勢を重ねるようにして乗った。親亀の上には子亀が、みたいな…

「…っ?!重いっ!そしてうっとうしい!!なんの真似だよコックてめェは」

「んー…これ、“サンジ君のお布団”」

「あァ?!」

「おれ全身でブランケットとかそんなような。読書のお供にどうぞ」

「要らん要らん要らん!」

 ゾロは身をよじって自称“お布団”を床に落とそうとしたが、それより先に両耳の脇からヌッとサンジの腕が伸ばされ、目の前に何やら小冊子を広げられた。

「――っ?」

「おれのほうはよォ〜、ゾロ、今これ読んだとこだよ。『ミホ→←←←ゾロ』とかいうヤツ」

「はっ?!!」

「なんなんだよてめ、このローティーンのような初々しさはよ」

「ろ、ろーていん…?」

「なんでもいいけど有り得ねっつってんだ!おかしいだろお前この態度」

「や…知るかよ。おれはそれ関係ねェし興味ねェし耳元でうるせえ!降りろ」

「『…おれから、誘ったんだ!』ゾロは目の前の首にギュッと抱き着く。」

「読〜み〜あ〜げ〜る〜なっ!馬鹿なのかクソまゆげ貴様っ」

 ゾロは勢いよく上半身を起こし、それに伴って床に倒れこんでしまったサンジのことを見下ろした。

「……ってェ…不意打ちで乱暴すんなよ」

「てめェが変にしつけーからだよっ」

「…うーん…だって、なんつーかよォ、…ずりィじゃねェかこの可愛いさ」

 とりあえず上半身を起こしたものの、拗ねたように横を向いたままサンジは言葉を続ける。

「なーゾロ、おれとその…初めてン時はおめェ、わりと当たり前のように受け入れてくれちゃってたじゃねェか」

「だ〜っ!それの何が悪いっ。なんだか改めて聞くとス、ステキじゃねーかよ。つーかっ…当たり前のようにだと?!んな覚えも全くねえが……あっいや、どうせその逆だったとしてもてめェは妙な言い掛かりつけんだろ?」

「ふん…別に悪いとか言ってねえ。なんかよォ…さっきも言ったろ。ここに書いてあるゾロが、その、可愛いなって…思っただけだよ」

「あ゛?! /////」

「そんで…いろいろ思い出してたんだよ。初めてした時のこと」

「う……もういい。そんな話恥ずかしいぞおれは…」

「ハッ…いいじゃねェか」

 サンジはゾロのほうに向き直り、後ろから包むようにその背中を抱きしめた。

「おいコック…」

「なあゾロ、言って。おれに最初にキスされた時、あの瞬間、お前は心の中で何考えたんだ?」

「知らね……忘れたそんなこと」

「忘れるわけねェよ、お前はそういうこと忘れる奴じゃねえ」

「はっ…その結構な評判にもう一つ付け加えろ。…おれは、そんな話題を口にする奴じゃねえ」

「って何かっこつけてんだバーカ」

サンジにソッコー小突かれて思わずゾロは舌を噛む。

「痛っ…!てめ」


「もういいよゾロ…そうやってしらばっくれてるならお預けだかんな。今お前が望んでること、してやらねェ」

「はっ?!何がだっ…何も望んでねっつんだ」

「そうかなァ…伝わってるぜ、さっきから…」

 サンジがうなじに口づけた。

「……っ…!

コック…お、お前だってな、さっきからずっと…、変なのが腰に当たってんだよ!」

「…!…フフフ、ハハッ」

「…笑うとこか?」

「いやあの…この本読んでお前がやたら可愛いと思って揺れたんだけども、目の前の…おれのゾロは、やっぱもっと可愛いな」

 ギュッと力を込めもう一度抱きしめる。

「ゾロ…最初のキス…お前ホントにどう思った?」


「……しつけェな、どうも思ってねェよ…頭真っ白になったし…

ああ…けどな、」

「…なんだ?」

「あとから思えばなんか……」

「ん?」

「…当たり前、みたいな感じだった」

「クッ…

ハハッ、やっぱりそうだったか!」

END

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