前半の海
□オマケ短文その2
1ページ/1ページ
ある昼下がり。そんな時間には珍しく甲板でも展望室でもなく男部屋にて、お腹をすっかり床につける格好で寝そべるゾロが本を眺めていた。そこへなにげなくサンジが入ってくる。
「おう!こんなところに一人か。ラッキー♪」
「………ラッキーってなんだ」
本から目を離すこともなくゾロが言葉を投げた。
「べーつーにいー。昼間から二人きりになれることなんてあまりないからな。今ここに来てみてよかったなァと……そんな意味だ」
「…フン」
呆れたように鼻を鳴らしたゾロだが、その耳が赤くなっているのが可愛いくてサンジを嬉しがらせた。
「で?ま〜た『筋肉とは何か』みてェな本読んでんの?」
「………。おれは『筋肉トハナニカ』っていう本を読んでたことは一度もねェけどな」
「大筋で言やあそんなようなモンだろうが」
テキトーなことを喋りながらサンジが近づいてきたと思うと、ゾロの上にほぼ同じ体勢を重ねるようにして乗った。親亀の上には子亀が、みたいな…
「…っ?!重いっ!そしてうっとうしい!!なんの真似だよコックてめェは」
「んー…これ、“サンジ君のお布団”」
「あァ?!」
「おれ全身でブランケットとかそんなような。読書のお供にどうぞ」
「要らん要らん要らん!」
ゾロは身をよじって自称“お布団”を床に落とそうとしたが、それより先に両耳の脇からヌッとサンジの腕が伸ばされ、目の前に何やら小冊子を広げられた。
「――っ?」
「おれのほうはよォ〜、ゾロ、今これ読んだとこだよ。『ミホ→←←←ゾロ』とかいうヤツ」
「はっ?!!」
「なんなんだよてめ、このローティーンのような初々しさはよ」
「ろ、ろーていん…?」
「なんでもいいけど有り得ねっつってんだ!おかしいだろお前この態度」
「や…知るかよ。おれはそれ関係ねェし興味ねェし耳元でうるせえ!降りろ」
「『…おれから、誘ったんだ!』ゾロは目の前の首にギュッと抱き着く。」
「読〜み〜あ〜げ〜る〜なっ!馬鹿なのかクソまゆげ貴様っ」
ゾロは勢いよく上半身を起こし、それに伴って床に倒れこんでしまったサンジのことを見下ろした。
「……ってェ…不意打ちで乱暴すんなよ」
「てめェが変にしつけーからだよっ」
「…うーん…だって、なんつーかよォ、…ずりィじゃねェかこの可愛いさ」
とりあえず上半身を起こしたものの、拗ねたように横を向いたままサンジは言葉を続ける。
「なーゾロ、おれとその…初めてン時はおめェ、わりと当たり前のように受け入れてくれちゃってたじゃねェか」
「だ〜っ!それの何が悪いっ。なんだか改めて聞くとス、ステキじゃねーかよ。つーかっ…当たり前のようにだと?!んな覚えも全くねえが……あっいや、どうせその逆だったとしてもてめェは妙な言い掛かりつけんだろ?」
「ふん…別に悪いとか言ってねえ。なんかよォ…さっきも言ったろ。ここに書いてあるゾロが、その、可愛いなって…思っただけだよ」
「あ゛?! /////」
「そんで…いろいろ思い出してたんだよ。初めてした時のこと」
「う……もういい。そんな話恥ずかしいぞおれは…」
「ハッ…いいじゃねェか」
サンジはゾロのほうに向き直り、後ろから包むようにその背中を抱きしめた。
「おいコック…」
「なあゾロ、言って。おれに最初にキスされた時、あの瞬間、お前は心の中で何考えたんだ?」
「知らね……忘れたそんなこと」
「忘れるわけねェよ、お前はそういうこと忘れる奴じゃねえ」
「はっ…その結構な評判にもう一つ付け加えろ。…おれは、そんな話題を口にする奴じゃねえ」
「って何かっこつけてんだバーカ」
サンジにソッコー小突かれて思わずゾロは舌を噛む。
「痛っ…!てめ」
「もういいよゾロ…そうやってしらばっくれてるならお預けだかんな。今お前が望んでること、してやらねェ」
「はっ?!何がだっ…何も望んでねっつんだ」
「そうかなァ…伝わってるぜ、さっきから…」
サンジがうなじに口づけた。
「……っ…!
コック…お、お前だってな、さっきからずっと…、変なのが腰に当たってんだよ!」
「…!…フフフ、ハハッ」
「…笑うとこか?」
「いやあの…この本読んでお前がやたら可愛いと思って揺れたんだけども、目の前の…おれのゾロは、やっぱもっと可愛いな」
ギュッと力を込めもう一度抱きしめる。
「ゾロ…最初のキス…お前ホントにどう思った?」
「……しつけェな、どうも思ってねェよ…頭真っ白になったし…
ああ…けどな、」
「…なんだ?」
「あとから思えばなんか……」
「ん?」
「…当たり前、みたいな感じだった」
「クッ…
ハハッ、やっぱりそうだったか!」
END