前半の海(-002)
□今日も雲はぽっかりと浮かぶ
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「おう、ゾロ起きた?」
「…んー……?」
「食器を補充してェんだ、買い物つきあえ」
「あ?……あれ…お前だけか。他の奴らは」
「みんなとっくに街に出かけたよ。そろそろ帰ってくる奴もいると思うけど……何?限られた時間だけどサラッとヤっとく?」
「……。
ところでお前、」
「スルー?!!」
「…コックお前、そこで何してんだ」
そんなことどうでもいいじゃねェかとおれは思うが、まァ比較的妥当な疑問だな。いつもどおり甲板で眠っていたゾロがふと目を覚ますと枕元、いや枕なんてねえけどフツウ枕元と呼ぶような場所におれが胡座をかいていたわけだ。そしてゾロは身を起こしもせず、寝転がったままおれを見上げて会話を続けた。そんな状況だった。
「何してたって言われると…そうだな、お前のこと見てた、かな」
「は?」
「…えーっと…言葉で説明するなら、…おれァお前の寝顔も好きなんだ。でもジックリ見てられる機会ってのはそんなにねーじゃん?」
「…???//// 変な奴」
「あー!それと、チュッ…ってのも何度かしたけど…全然起きねェのな。お前って普段眠り浅いほうだと思うのにな。おれの気配には安心し過ぎ?」
「バカか!っつーか勝手にそーゆーことすんなよ」
やっとゾロは体を起こすと、少し赤面しながら文句の言葉を吐いた。
「なんで?ちゃんと意識ある時にしてほしいって意味?」
「うるせェ!!!
…それで?食器がどうとか…おれ、番してるから一人で行ってきてもいいぞ」
「あー。重くなるから荷物持ちやれよ。どうせそろそろ入れ違いくらいで誰か戻ってきそうだし…こんな目立たねえ入り江に船番要らねェだろ」
…まァ、それとなんつーんだホラ、おれ的にはそんなこと言って一緒に歩いてみたいだけってゆーのもあったり。
「ああ…そりゃ、おれは別に構わねェけど…」
「おしっ!んじゃ来い」
おれはさりげなく(少なくともさりげないつもりで)ゾロの手を引いた。指を絡めようとして、あっさりほどかれちゃったけどね。
「ゾーロー。二人きりだ。ほんの数メートル移動する間くれえ手ェ繋いだっていいじゃねーかよ」
「誰かに見られたら何て言うんだよっ」
「はいはい、それじゃあ今我慢した分をよ、あとで誰も見てねェ時ならど〜んなすっげェことしてもいいんだな?」
「話をすり替えんな。なんで交換条件みてェの出されてんだおれは」
「あ!けどお前あれだよな、誰かに見られたらとか言うけどよ、わりとその、見られちゃう〜イヤ〜ン見ちゃダメ〜…みたいなシチュエーションに興奮するタイプだろ」
「フザけんなっ!!!ほっときゃどんだけ勝手に展開すんだてめェは!」
「ヘヘヘッ…」
そうやって、ほとんどいつもの繰り返しみてェな会話をしながら並んで買い物に向かう。
(ああ…――――)
好きだ。何一つ特別じゃなくても、おれはこういう時間がこういうゾロが…ああ、全部好きだ。
「…おいコック、顔がものすごく変だが何ニヤニヤ笑ってんだ」
「え〜?…あー、なんだろうな、嬉しくて…♪」
「…?」
「なあなあゾロ、それよりこれ、コップとセットのこのプレート、“カフェごはん”ぽくて可愛くねーか?」
「かっ…かへ?なんかよくわかんねェがまァ…そうかもな」
「ホントにそう思うか?」
「あっ?…ああ、別にそんな確認されるほどの意見でもねえけど……まァな(???)」
「だったらさお前、『そうかもな』じゃなくて、『可愛いね』って言ってみろよ」
「……………。
………な、なんでだ」
「なんとなく。お前がそーゆー言葉使ったら新鮮かなって」
「っ…くだらねェよバカ」
「そうかなあ…全くお前はよ〜、たまにはおれの言うこと聞けよ」
「あァ?!結構聞いてんだろ…」
「……」
「……あ///」
(――――ん?)
「あ〜〜っ、ゾロ!お前っ、今っ、頭ん中で何考えたんだよォ」
「はあ?うっ…うるせェな何騒いでんだよ」
「フフン…わかっちゃったぜ、言ってやろうか?『結構言うこと聞いてんだろ、セックスの時は!』…だろ?」
「だああ〜!!デカイ声で何言ってんだ斬られてェのかアホッ!」
「あ…」
「ナミ?どうかした?」
「ロビン…またしても!あのホモップルが人前でベタベタしてる。サンジ君たら船を空けてきたわね〜。私の宝とみかん守るって言ったくせに!」
「彼の言葉は常に話半分と思ってないと…」
(S:えーっおれの評判ひどくない?ロビンちゃ〜ん)
「そういえばねロビン、あの二人が初めてそうなった時、ゾロはサンジに『お前の言うことは100%信用できる』って言ったって噂」
「そんな判断力だからすぐ迷子になるのね…いえ、というか、やっぱり抜群の相性の良さってこと?」
「なんだかね…フゥ〜ッ。さ、行こ行こ。早く船戻らなきゃ!」
END