前半の海(-002)
□恋の話をしよう。なァ、でもこれ秘密だぜ
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特に何があったわけでもないのに、今夜のクルーはやけにアルコールが進んだ。船内はさながら宴。…まァそんなのも、ここではどっちかって言うと日常茶飯事か。大騒ぎで時が過ぎる。
サンジとウソップは酔い醒ましのためか、いや単に酔っ払いが調子に乗ってといったところか…二人で甲板の隅に寝転がり、星空へ向けてパチンコなど打って遊んでいる。どちらも上機嫌で楽しそうだ。
傍目にはそのゲームにきちんとルールがあるようにはとても見えないのだが、時折、「おれの勝ち〜!」などと言ってハシャギ合っている。
そうするうちにふっと、ウソップがサンジに尋ねたのだった、「なあ…、一番最近の恋ってどんなだった?」
ウソップは何も、ゾロとの詳細なんて聞きたいわけじゃない。むしろ二人のイチャつきぶりにはうんざりしていた。だけど嘘つきのいわば先達としての威厳にかけて(?!)、隠し通せてるつもりのサンジがどんなトークをするのだろうかと不意に興味を持った。
サンジは1秒、いや0.5秒くらいだろうか、一瞬固まったように見えた。それから、器用にくわえていたタバコをそっと右手の指に預ける。
「…何?ウソップお前、最近誰かに恋でもしたってやつか?」
「ちがう。そんな出会いなかったろ。ただ、なんかサンジお前って…女全般大好きで誰にでも同じ態度だろ。本命にはどんなんかなァって、なんとなく…」
「ん〜〜ん?イマイチ何が聞きてえのかわっかんねェ奴だなあ。別に面白い話ではないと思うぜ」
「いいじゃねーか、聞かせてみろよ」
「んー…一番最近の、だよな?」
「おう」
「あれは…そうなー、なんて表現したらいいかな…オイこれさ、聞かれたから答えるだけだぞ」
「ああわかってるよ、遠慮なく続けろ」
「…その、漂う空気はほとんど“淡い恋”みてェな世界でよォ…」
(はいっ??いやいやいや淡くねェよ?だいぶ我が耳疑っちゃうよ?)
「そいつと一緒にいると…なんとも澄みきった気持ちになるんだ」
(そそそそう?わりといつもエロモードじゃね?こちとらあ〜んな体位もこ〜んな場面も目撃させられてるんですけどー…!)
自分で話を振ったものの冒頭からもうツッコミたくてしょうがないウソップをよそに、サンジは空を見ながら言葉を続ける。
「えーっとさ、おれのそれまでの、小悪魔系お姉様方に弄ばれる感じとは違って、」
(いやお前どんな人生送ってきたんだ…)
「まるで少女のようなそいつの真っ白いワンピースをおれの色に染める感じ…」
「…もしもしサンジ君、“真っ白いワンピース”ってなんかエッチい」
「…そうか?いや、そこあんま大事じゃねえ」
「あー…まァ置いといて、………キレイな人か?」
「ああ。それはもう…世界中の誰よりも、だな」
「ふうーー…ん
かっ…可愛いのか?」
「…フッ。
…ああ、か〜わいいよ。世界中の誰よりもだ」
少しデレッと、サンジが顔をほころばす。
「…ふうーー…ん
お前さ、初恋なんだろそれ」
「はっ?!
バッ…///// バァーカ!てめェの人生基準で考えてんじゃねーよっ。おれァ今まで何人の女と寝たと思ってんだよ」
「…何人のってそれ、“恋”とは限んねーじゃん」
「なっ……!ウソップのくせに生意気だ!おれの思い出の中のレディー達に謝れ」
「フン…そうかもな、ヘーヘー」
チラリとウソップがサンジの顔を見ると、少し困ったように落ち着きなくタバコを噛んでいた。珍しい動揺ぶりだった。
「…なあサンジ、…守りたいとか、そんなふうに思うもんなのか?(あんな、めちゃくちゃつえーアイツが相手でも…)」
「えっ。
…あー。んー…それもあるけど、…なんつーかもうちょっとシンプルに…“一緒に生きたい”って言うのかな」
「………。」
「そいつが動いて喋って笑って眠って…おれにとってそーゆーの全部もう奇跡だから」
うお…嬉しそうな顔しやがってこいつ。普段あんま見たことねえなァ…――ウソップは、思いがけずサンジの表情にしばらく見とれた。
「サンジ……なんかまァあれだな、そいつにとっても、…お前でよかったんじゃねェか?」
「…//// そう思うか?…ハハッ、ウソップ、お前にも紹介できたらよかったんだけどな」
(いや、いいし―――)
<●><●>;;;;
「あ〜…クソッ、おれ何をベラベラ喋ってんだろうな。恥ずい!酒の力こえー!
……この想いは、今までずっと秘密にしてきたんだ。なあウソップ、誰にも言うなよ」
「あ?ああ…」
ひみつ…秘密ねえ。
「まァおれは、言わねえけどよ…」
けどお前、
言わなくてもそれ、
かなりもう、
…溢れてる―――
END