♪リクエスト作♪(-002)
□Club delicious!(後編)
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サンジがソファーで新聞を読んでいると、そのうちベッドではもぞもぞと起き上ったゾロが無防備な様子で目をこすり始めた。
「フフッ…」
――――可愛いな、と当たり前のように口から出そうになって、すぐにサンジは顔から火が出る思いで目を逸らした。それがあまりにもブルンッと勢いよく逸らしたものだから、持ってた新聞の端が少し破れる始末。
「…マスター」
まだ半分夢の中なのかゾロはぼんやりと喋り出す。
「はっ、…はい?」
「……おれ、夕べ何かした?」
「は?!なにか、って………やっ別に……(いやまァ抱きついてくれたり擦り寄ってきたり、何かされたっちゃされたけどむしろ何かしたっつったら、…ちょっとだけだけどキスとかしちゃったおれのほう??)」
「マスター、何時頃だったかわかんねェけど風呂行ったろ。夢かと思ったけどあれ現実だよな?おれ寝相悪ィからよ、何か…起こしちまったのか?」
「あ゙っ?!やー…あれはその…、」
サンジは動揺した。踏んづけようとも覚醒しそうになかったゾロがそんなことに気付いていたとは。
「あれァ別にゾロ、お前のせいとかじゃなくてな、…ちょっと寝つけなかったんで、目ェ覚ましに行ったんだ」
「???…マスター、今すげー変なこと言ったぞ。眠れなくて目ェ覚ましにって…、どっち……」
「えっ!!!あ…////ちっ違うんだよ、うーん最近ちょっと、疲れてて…」
「…仕事のことか?」
「ん?んー…まァ、そうな。でも…ハハッ、お前が心配するようなことじゃねェよ。ごめんな」
「………うん。あー…顔、洗ってくる」
「おう。お前用のタオル、鏡の横に掛けてあるから。黄緑色のゾウさん付いてるやつ。使って」
「あ?ああ。………(ゾウさんて…ι)」
「そうだゾロ、お前今日は休講って言ってたけど丸ごとじゃねェんだろ?午後は学校行くのか?」
洗面所へと歩き始めた背中に声をかけられゾロは振り向いた。
「おう」
「…お前さ。店は無理してまで出なくていいんだから、おベンキョウもちゃんとやれよ」
「……わかってる」
それから新聞に目を戻したサンジの横顔を、ゾロは無意識にジッと見つめた。いつも、カウンターというマスターのステージで、接客をする時の横顔は何度も何度も毎日のように見ているけれど…今日はその顎も鼻も睫毛も全部、明るい陽の光の下にある―――。目覚めたらすぐそばにサンジがいたこと。なんだかすごく特別な朝のような気がして胸がギュッと熱くなった。だけどそんなふうに思ったことをサンジに知られてはいけないような気もして、そう考えたら体の奥のどこか深いところがチリリと痛んだ。
「…………。」
「あそうだ!」
(―――――!!)
急にひょっこりと顔を上げたサンジとバチリ目が合って、ゾロは思わず赤面する。
「んっ?ゾロ…?何、どうかした?」
「や、なんでも…っ」
―――――なんだろうこれは。わけもわからず突然泣き出しそうになって、ゾロは慌ててかぶりを振った。
「…?なあゾロ、11月11日なんだけどな、お店をお前の誕生日仕様に飾り付けてパーティーみたいにしようってエリザベスさん達が言ってた」
「ええっ、いいよそんな…お客さんに悪ィよ」
「うん…でもそのお客さんがやろうって言ってんだから、まァいいんじゃない?楽しみにしてろよ。おれ、ケーキとか焼くから」
「………////」
「さて…っと、」
サンジがゆるりと立ち上がる。
「メシ作ってるから顔洗ってこい。お前、何時にここ出れば間に合う?」
「えっと、…まだ、二時間くらい平気」
「そ。んじゃ、ちょいと豪勢なブランチにしようかね〜♪」
「…………」
楽しそうに笑うサンジにゾロはつい見とれた。そして心臓の辺りでまるで何か植物でもポンポンと、早送り映像のように芽吹いてゆくような、まったく経験したことのないくすぐったさを覚えた。
* * *