♪リクエスト作♪(-002)

□愛しくてあふれて
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 午前0時のキッチン。サンジが一人ミルクパンの生地を丸めていると、不意に背後で入口のドアが開く。かなり遠慮がちなボリュームで、きいぃと小さく扉が軋んだ。
 もしも今ここで背を向けているのがおれじゃなかったなら。サンジは思った、その控えめすぎるドアノブの使い手のことをレディーのどちらかだと思い込んだかもしれないと。
 だけどその「もしも」は考えたってしょうがない。自分は、たとえ完全に目を閉じていたとしてもその男の気配をもう絶対に間違えたりするはずがないのだ。
 サンジはフッと口許を緩ませると振り向かずに言った。
「なんだよゾロ、おとなしいじゃん。こんな時間に起きてくるの珍しいな」
「は?…………ああ…」
 文字数の少なすぎる返答。それでもサンジにはゾロが赤面していることが伝わった。何か、“ソノ気”で来たらしいってことだ。
「コック、お前何してんだ」
「何って…」
 あまりにも見たままなんだけど、とサンジは笑いながら明日の朝メシの支度だと答えた。
「へえ…」
 自分から尋ねたくせに随分な薄い反応を返しつつ、ゾロはカウンターの一つにトンと座った。そっと頬杖をつく姿は猫のような空気を纏う。
「ゾロ…?何か飲むか?」
「…いや……」
「ふーん…」
 しばらく沈黙が流れて、サンジは手元の作業を続けていたが、少し経つと丁寧に洗った手を布巾で拭きながら、ゾロの隣りへ腰を下ろした。
「えー…っと、おれァもう、今夜やろうと思ってたことは終わった。風呂でも行く?」
「や、風呂はあとでいい」
「は?あとって、…」
(…えっ…――――?!!)
 いきなり顎を掴まれてキス。
「ンッ…」
(ゾロ……?)
「は…っ…」
 ゾロのほうからストレートに仕掛けてくるなんて珍しい。不器用な動きの指先がとても熱かった。驚いて顔を離すと、ゾロの潤んだ瞳がちょっとはにかんだように、でもちょっと怒ったように独特の表情を携えながらジッとこちらを見ている。サンジは思わずゴクリと喉を鳴らした。
(なんなんだコイツ。あー…えっと、…すげェ可愛いんですけどっ。)
「ゾロ?…いいんだけどさ、毛布かなんか敷くから待って。その辺にすぐあるから」
 そう言って立ち上がったサンジの手首をゾロの手の平がガシッと掴むと「おれが、」とこれまた短く言う。
「おれが…?」
 何?毛布出してきてくれるって?サンジがなんとなく立ち尽くしていると、ゾロは案外手慣れた様子で一つのキャビネットから目的のものを取り出してくる。
(ふうー…ん)
 思えばここでお前と寝るために何度もその毛布使ったよね。サンジは心の中で呟く。ああいやいや、その都度洗濯はしてるんだけどもさ。とにかくこれまで幾度となく二人でそいつを使ったもんだ。そんで、いつのまにかゾロがそれに慣れてるってことがなんとはなしに愛しい。だって客観的にはこのロロノア・ゾロは、食う飲む眠る戦うそしてヒマならひたすら鍛える、のただ五つ以外のことなんて何一つやってないように見える男なのだ。それが自分と二人きりの例のきわめて個人的な営みのために小道具をせっせと準備できるなんざァ、今さらながらこれはすごい進化だとサンジは思う。
「これってやっぱ…おれが躾けたっつー…そういうことになるわけだなァ」
「あァ?!なんだって?」
「いやいや、なんでも…」
 
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