2年後からの海

□699話の夜
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 どうしてそうしようと思ったのかは本人にもわからなかった。
 靴さえ脱がず、行き倒れるようにして眠り込んでいた男部屋。ふと夜中に目が覚めてゾロは、アクアへ行こうとなんとなく起き上がったのだった。その時点では特にそこに何があると思ったわけでもなかったけれど。

 そうしていくらか寝ぼけまなこのうちに辿り着いたアクアリウム・バーでは、サンジが一人酒を飲んでいた。ゾロはまるでそれを知っていたかのような表情で小さく頷いてから、ふっとサンジの姿に見とれる。どことなく満足そうに見えるのは、今回の戦いにおける達成感のようなものから来てるのだろうか。綺麗な横顔だと、思わずにいられなかった―――(…ああいや、黙っていりゃあ、だな…)―――、心の中で少し笑った。
 それからよく見れば、正確にはサンジは一人きりだったわけじゃない。そばに錦えもんがいて、彼のほうはそのチョンマゲ頭をテーブルに委ね、すっかり夢の中だった。

「コック…」
「あっれ〜…ゾロ君どうした。寝てたんじゃねェの?」
 酔った声のサンジが陽気に笑いかける。
「…寝てた。けど起きた。……お前がここにいるような気がした」
「へえ……おれも。なんかお前のこと愛してんなって気がしてた」
「………」
 噛み合ってねェよバカ…――――ゾロはそっと苦笑すると、黙ってサンジの隣りに座った。
「お。お前も飲む?ジョッキあるぞほれ」
「ああ…」
「…さっきまでなー、キンエモンと語ってたんだ。…つってもコイツ、“訳アリ”ヅラしながらてめェの話は全然しねェのな。ナミさんの乳バンド乳バンドってそればっか。…ッハ、100年早ェっつーんだよなァ…」
 文句を言ってるようでも、やっぱりサンジは嬉しそうだった。

「…最初そいつ見たとき、下半身だけで竜に刺さってた。お前は顔を組み立てたんだっけ?ハハッ…まさかサニーで一緒に飲むことになるとはな」
「まったくだ。ルフィの奴…なにも今に始まったこっちゃねェが、また随分とすげェ目に遭わせてくれやがって…ハハハ」
「……」
 金髪が揺れたせいなのか、笑うサンジの顔がキラキラと光って見えて、ゾロは目を細めながら手を伸ばすとその頬を撫でた。

「っ!!ゾロ…?何…////」
「あ?…んー…コックお前、…大活躍だったよな、パンクハザード」
「へっ?!」
「…よくやったんじゃねェか?いろいろ。…そいつの胴体取り戻した時とかな」
「あー…////えーっと…まァ勝手に、してェこととできることをやっただけだけどな。…でもなんか、……お前に見ててもらえるっつーのは…嬉しいもんだな、…エヘヘ////」

「!!(……エヘヘって)」
 サンジがやけに素直にデレたのでつられて照れ臭くなったゾロは目線を外したが、それを追うようにサンジの手がゾロの肩をグッと抱いた。
「…あ?」
「ゾロ。そんじゃ、ご褒美のチューして」
「はあ?!…なっ、…なんで…」
「え!むしろ『なんで』ってなんで?めっちゃそーゆー流れじゃなかったか?今」
「流れてねェよ!!すぐそこにキンエモンだっていんのに…」
「はー?見ろよあのツラ。んな、ちょっとやそっとじゃ起きねェって…」
「あ…っ、待てっ……」

 ゾロに「して」と言っておきながら少しも待ちきれないらしい。すぐにサンジのほうが唇を迎えに行った。
 
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