2年後からの海
□クリスマス小話
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「なあコック、あれ何だろうな」
旅先の市場から船に戻る途中だった。マリモヘッドの奴がまるで小さな子供のように素直な調子で、ふいにそんなことを言った。
「…あれって?」
「飾りつけた木みてェの。あちこちにあるだろ」
「あー…なんつったっけ……んー…クリスマス、ツリー?」
「…知らねェ」
「ああ。知らねェな…どっか遠くの国の、宗教にちなんだ習慣だろ?」
「知らねェ」
「ああ…」
“だけど、綺麗だな”
――思わず二人で同時にそう呟いていた。
マリモが決まり悪そうにチラリとおれを見る。
奴が照れてる時のこんな顔はとても好きだ。
「…ゾロ、今ちょっと思ったんだけどよ」
「ん?」
「お前そんなの着て全身緑色だからよ、頭に星でもくっつけてりゃあアレと似てんじゃね?ワハハ…
……っていねェし!」
いつの間にかゾロは、街角にある一つの大きなツリーのそばまで歩み寄っていた。おれも静かに近づいてその肩を抱く。
「おいおい、何ボサッと見とれてんだおめェは」
「や、…なんとなく」
「……」
お前の横顔のほうが他の何もかもよりずっと綺麗だぜなんて、心で思っちまっておれは小さく苦笑する。
「…おいゾロ
……キスしていいか」
「…いいわけねェだろ」
(…………。)
「―――!…ッハ!コックてめ…ダメっつったろ聞く意味あったのかよ!…往来でっ…すんなよ―――!!」
「うわ〜…ロビン見た?あいつら、こんな人通りの多い道で堂々とキスした…」
「ええナミ、かなり思いっきり見たわ」
「あれで本人達は仲間にも隠せてるつもりでいるんだからつき合いきれないわ〜…。だいたい、なんていうか…ある程度有名人なんだから慎んでほしい。うちの一味にホモップルがいるなんて、世間で周知の事実になったら恥ずかしいじゃない!」
「フフフ…。ねえだけど、ゾロの顔にサンジの頭が重なると、クリスマスツリーのてっぺんに星が飾られたみたいで可愛いかったわ」
「ええ?!…あ〜…アハハ…確かにね、言われてみればあいつらそんな感じだわ」
「そして…
ゾロにとっては本当に彼が、何より輝く一番星なのよねきっと」
ロビンが穏やかに笑うので、つられてナミも微笑んだ。
「うん、あれが照らしてやんなきゃゾロはすぐまた迷子になっちゃうのよ、きっと。アハハッ」
「…ナミ。向こうの道を、行きましょうか」
「そうね。あいつらの仲間だなんて、周りから指さされるのはごめんだわ」
「ウフフフ」
「ゾロッ、ゾーロー…悪かったよ、シカトしてんなよ、つかそっちじゃねーっつーの!ちゃんと一緒に歩けって…」
「イヤだ。お前みてェに人前であんなことする奴と並んでなんか歩けるわけねえ!」
「…んだよ、しつっけェ奴だな〜。そんなふうに繰り返されるとよ、むしろもういっぺんしてほしいっつー催促に聞こえてきたけど?」
「――!!アホッ…どんだけ都合いい耳してんだてめェ」
「んー…こんだけ」
「黙れ!」
「ゾロお前は?お前はどんな耳してんだっけ?ちょっと味見させてくれよ」
「させるかバカ!」
「クソッ…」
おれは駆け寄って、ゾロの腰を抱き寄せると耳を軽く噛んだ。
「や…めろって!何やってんだホントにてめェは…どうなりてえんだ、こんなっ…道端でよっ」
「ヘヘ…いやなんつーか…ちょっと、我慢できねェ感じになってきちゃった♪」
「…………」
「なァ…船戻ったら風呂場でさあ…」
言いかけておれは、つい噴き出した。
「なっ…なんだよコック!」
「だってゾロお前っ…明らかに、『風呂場でならいいけど』って顔したぜ?か〜わいいんだからよマジで」
「なっ…////
そんなわけねェよ……させねえ!させねェかんなっ、とにかくもうお前黙れ」
「黙んねェよ〜ん。ゾロ、ゾロ、ゾロ、ぞろろろろろろ〜〜…」
「うぜェよっ!!」
「はいはい、そんなにおれが好き?」
「あァ?!」
遠い遠い空の一番星。優しい暗がりを運ぶために出番を待ちながら、二人の様子を聞いている。
(恋人達よ、
待っておいで―――)
そしていくらか恥ずかしそうに、思わせぶりに揺らめくのだった。
「お〜い待てっつーのゾロ」
「待たねえって…何度言わせんだ!」
「いや、てゆーか、戻る方向そっちじゃねェんだって!!!!!!」
END