黒羽の妖精

□過去と今
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 時はさかのぼること12年程前。アルムがまだ、5歳の時。

『うう…もう疲れたよ…』

まだ幼く、体力もあまりなかったアルムは道端でペタリと座り込んだしまった。

「姫。立って下さい。追っ手はもうすぐそこまで来ています。もしこのまま捕まれば、即牢獄行きとなるでしょう。そうすれば、自由を手にする事も何も出来ないのですよ。」
『でもぉ〜』

 自分より5歳程年上ぐらいの男の子が困ったような顔をしながらいう。その背中にはまだ幼かったアルムの妹、アミュが疲れきり寝ていた。こんなに可愛らしい幼子を巻き込んでしまったと思うと、今でも心が痛い。

「さあ、参りましょう。私は、アミュ様以上は残念ながら持ち上げることは出来ません。自力で夢を掴むのですよ。姫。さあ、私の手に捕まって。」

渋々ながら彼の手を取ると、彼は勢いよく引っぱりあげ見事に私を立ち上がらせた。そしてまた走る。

『ハアハアハア…』

彼の息遣いも荒くなってきた。まあ、確かに小さいとはいえ子供をおぶりながら走ったのだそれは仕方なかったのだろうが…

「見つけたぞ!!」
「ック」
『ねえ!来たよ。どうしよう…!捕まりたくないよ。』

私はすがるように彼を見た。彼は思い詰めた様な顔になっている。

「…アースランドへ逃げて下さい。」
『へ?』
「アミュ様とともにアースランドへ向かって下さい。」
『…アースランド…?』
「ええ。下界の事です。」

すると、彼は立ち止まった。季節は秋だったのか、枯葉が舞う。

「ホウ…堪忍したか。さあ、姫様方を返して頂こう」
「それは出来ない。」
「では、どうするつもりだ?」

 追っ手の中でも一番図体の大きいのが彼に向かって喧嘩口調で話してくる。彼はスッと笑顔を作ると何かを唱え始めた。その瞬間、その場にいた全ての者の顔色が変わる。

「貴様!乱心か!!」
「乱心などではない、これは一つの突破口だ!!」

彼の後ろに大きな鉄の扉が現れる。が、後ろには何もあるようには見えない。

「さあ、行って下さい。姫。アミュ様を連れて。」
『…。』
「お姉ちゃん…?」

 アミュが目を覚ました。追っ手の事に気がつき顔を歪める。彼は、アミュをおろすと、アルムの所へ押し、クルリとアルム達に背中を向けた。その背中は何故か悲しげで、今でも忘れることはない。アルムは、扉のとってに手を掛けた。すると、自動的に扉が開く。

「姫!なりませぬ!!」
「行って下さい!!!!!!!!」

 アルムは、アミュの手を引くと扉に飛び込んだ。そこは光しかなかった。そこからのアルムの記憶は無い。この時最後に覚えているのは、扉の閉まる音と、妹の手の感触だけだ。


 気がつくと、ベットの上にいた。

『…此所は…!アミュ!!』

 アルムは飛び起きた。そこは、見た事もない場所で…恐くて、恐くて。
すごく……泣きたかった。

『うっ…ううっ』

もうどうすれば良いか、なにもわからない。コラム…

「起きたか」
『?!…だれ?』

とても優しそうなおじいさんが立っていた。(背は私の方が高いが)

「ワシか?ワシは妖精の尻尾の総長(マスター)、マカロフじゃ。」
『総長?』
「そうじゃ、此所は魔導師ギルド妖精の尻尾。魔導師の集まる場所。」
『魔導師?』
「魔法を操る者の事じゃ。お前さんは、ここに来て1年半も目を覚まさなかったんじゃぞ?」
『…魔法…。』

 魔法とは何か分からなかったが、見覚えはある。もしかしたら…

『ねえ…おじいちゃん。』
「なんじゃ」
『魔法って…これ?』

アルムの身体を光が包み、光が弾けるとアルムが着ていた服が替わっていた。

「ほう、換装か。しっかしこんな換装は見た事がないのう。」
『これ、お母さんが言うには…』

お母さん…お母さん…。思い出すたびに、身体が震える。

「どうした…?」
『ううん。なんでもない。あのね、これお母さんが言うには“妖精(フェアリー)”って言うんだって。』
「妖精…か。妖精の尻尾にぴったりじゃな。どうじゃ、うちの魔導師にはならんか?」
『楽しい?』
「もちろんじゃ。仲間がいて、友がいて、ライバルがいて。大変な仕事もあるじゃろうが、たんのしいぞお」

 此所からは早い、アルムは妖精の尻尾のメンバーとなった。


 そして、何ヶ月か後の事…
ガチャ…―
 アルムは、カウンターから振り返り扉を見る。

『…新しく、此所に入りに来た子かなあ?』
「何?あの男の子、気になんの?」
『え?!べっ別にそんなつもりじゃ…』
「ふーん」

 カナは、ニヤニヤしながら言ってくる。アルムは、彼を目で追っていた。

「あ。アルム!一緒に仕事行かない?」
『良いよ。依頼板に見に行っこか』
「おお、良い所におったアルム。」
『え?私…?』
「アルム?」
「この新入りの面倒を見てやってはくれんかの。グレイというんじゃが」
『…グレイ…。分かりました。』
「アルム―?早くおいでよ。」
『ちょっと待って!あ。来て』
「おい、ちょ…」
『ねえ、カナ。この子も良い?』
「何?ゲットしちゃったの?」
『そっそんなんじゃない。ちょっと面倒みてあげるだけ!ちょうど仕事行くんだし良いかなって思っただけだよ。』
「分かった分かった。良いわよ?で、どうするの?」

 これが、アルムとグレイとの出会い。今から、約10年程前の話しになる。


 そして、今に至る。

『お早う。ミラ』
「あら、アルム。おはよう。早いわね」
『うん。最近仕事行って無くて家賃がね…』
「あらら、頑張って」
『うん。』

私は依頼板の前で仕事内容を見ている。

『良いのないな〜』
「『良いのないな〜』じゃねえだろ。」
『あ。グレイ。』

 振り返ると、グレイがいた。かなり不機嫌な様である。

「ったく…仕事行くなら言えっての」
『…ごめん。』

アルムは俯きながら言う。グレイは「ハア」と溜息をつくとアルムの肩に腕をまわした。

「で、どうすんだ?」
『え?』
「え?じゃねーだろ。仕事だよ、仕事。」
『ああ。えーっと…』

また、いつもの日常が始まったのである。





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