□早苗ほたる
1ページ/13ページ


木々の揺れる音と、自分の出す足音だけが聞こえる静かな世界

目の前に広がる闇に対する光は、辺りに飛び交う蛍たち

数え切れない無数の光が、真っ暗な道を微かに照らしていた

そんな5月の夜

俺の心は、絶望と諦めの入り混じった絵の具で真っ黒に塗りつぶされていた

もう何もかも投げ出したくなって、当てもなく夜の山道を歩いていたとき

小さな光たちが照らし出したものは、道でも雑草でもなく

―――――君だった

夜風に攫われて長く黒い髪と対照的な白いワンピースの裾が靡く

小さく積んだブロック塀に座り、どこか遠くを見つめていた

そんな姿を無数の光が取り囲み、照らし出す

その瞬間は、まるでおとぎ話のワンシーンみたいだった

呆然と立ち尽くす俺に気付いた君は、俺と張り合うくらいに目を見開く

2人の開いた距離を蛍が埋め尽くしているせいで、離れているのに手を伸ばせばすぐに届きそうに思えた

5月下旬 昼間の湿っぽさも夜にはなくなっていた時期

俺は君と出会って・・・

「あなた 誰?」

一瞬で恋に落ちたんだ


            
早苗ほたる
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ