翠
□早苗ほたる
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木々の揺れる音と、自分の出す足音だけが聞こえる静かな世界
目の前に広がる闇に対する光は、辺りに飛び交う蛍たち
数え切れない無数の光が、真っ暗な道を微かに照らしていた
そんな5月の夜
俺の心は、絶望と諦めの入り混じった絵の具で真っ黒に塗りつぶされていた
もう何もかも投げ出したくなって、当てもなく夜の山道を歩いていたとき
小さな光たちが照らし出したものは、道でも雑草でもなく
―――――君だった
夜風に攫われて長く黒い髪と対照的な白いワンピースの裾が靡く
小さく積んだブロック塀に座り、どこか遠くを見つめていた
そんな姿を無数の光が取り囲み、照らし出す
その瞬間は、まるでおとぎ話のワンシーンみたいだった
呆然と立ち尽くす俺に気付いた君は、俺と張り合うくらいに目を見開く
2人の開いた距離を蛍が埋め尽くしているせいで、離れているのに手を伸ばせばすぐに届きそうに思えた
5月下旬 昼間の湿っぽさも夜にはなくなっていた時期
俺は君と出会って・・・
「あなた 誰?」
一瞬で恋に落ちたんだ
早苗ほたる