♪10万HITS企画♪
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エリックと俺がパートナーになって、一年が経っていた。本来死神にとっては瞬きほどの時間だったけど、俺はまるで百年も経ったような錯覚を覚えていた。
それは、エリックに恋心を抱いていたから。重なりそうで縮まらない二人の関係に一喜一憂していたら、日々はとても長く感じられたものだ。
今日も俺は、エリックの遅刻を口うるさく咎めていた。彼はそれを、のらりくらりと言い訳をして聞き流す。
「エリックさん、夜遊びも程ほどにしてください!これ以上遅刻したら、減俸ですよ!何より、後輩に示しが付きません!」
「あ〜、わーったわーった。俺も減俸は勘弁だから、その辺は上手く調節してるんだよ」
「確信犯ですか?だとしたら、もっと質が悪いです!」
エリックは、自分より頭ひとつ分低い俺のブラウンの髪にポンポンと大きな掌を置いて、気にした風もなく微笑みを見せた。
「よしよし。庶務課行こうぜ」
「もう、エリック…」
拗ねたような声を出して、俺はそれ以上言及出来なくなってしまう。知ってか知らずか、それは俺の小言を治める魔法のようなものだった。近しい仲だからこその小言に返す、微笑みと仕草。新人時代から、誉める時に頭を撫でるのはエリックの癖だった。
「ようヴィアンカ、デスサイズ出してくれ。アランの分も」
「おはようございます、エリック先輩。アラン先輩も」
庶務課のデスサイズ管理庫受付に行くと、ゴージャスなブロンドで巻き毛の女子派遣員が、あからさまにエリックのオマケのように、俺に挨拶を投げかけてきた。俺は挨拶しかした事がなかったけど、エリックは彼女と親しそうだった…『色々』と。
「おはよう」
それでも律儀に返したが、すでに彼女は管理庫へと踵を返していた。
(エリック…彼女とも遊んでるんだな…)
それに比べて自分は、と俺は己を省みる。
(口うるさくて、ただの後輩で、何より、俺は男で…)
エリックに対する気持ちが『恋』だと気付いたのは、三ヶ月ほど前だった。回収中に悪魔に遭遇し襲われた時に、エリックが身をていして庇ってくれた。パートナーだから当たり前なのかもしれなかったが、両親を知らずギムナジウムで育った俺にとっては、青天の霹靂だった。申し訳ないという気持ちと共に、無償の愛を知った劇的な瞬間だった。
(あの時エリックがいなかったら、俺は今頃、お墓の中だったろう)
その想いは日に日に募り、それを持て余し始めているこの頃だった。
「はい、エリック先輩!アラン先輩も」
ヴィアンカが、二人分のデスサイズを持ってやってくる。やはり、俺はオマケで。
(…俺は…醜い…)
心に渦巻く嫉妬心に、俺は彼女の女性らしいチャーミングな顔が目に入らないようにしながらデスサイズを受け取った。
(俺が女性だったら?エリックは、恋人にしてくれたろうか…。いや、エリックは恋人を作らない主義だ。…でも、遊びだって良い…)
俯いて数瞬、そんな考えに捕らわれていると、ひょいと顎を持ち上げられた。
「おい、アランってばよ。どうした?調子でも悪りぃのか?」
上向かされた顔をエリックが覗きこんできて、二人の顔の距離がグッと縮まった。状況を理解すると同時に、俺は項まで朱をはいた。
「!な、何でもない、エリック!!」
顎にかかったエリックの、大好きな筈の長い指を振り払い、俺は大声でそれを拒絶した。エリックが、ポカンとした顔になる。
「あ、ご、ごめんエリック…考え事してて…」
エリックがプッと噴き出した。滅多に見られない楽しそうな破顔に、俺は思わず見入ったが、
「どうしたんだ、そんな赤くなって…。さては、何かエロい妄想してたな」
「ち、違いますよ、エリックさんと一緒にしないでください!」
行きつく結末は、やはり小さな喧嘩なのだった。クスクスと笑うエリックと肩を並べて派遣協会を出て、回収の為に人間界への道を開いた。
Continued.