♪10万HITS企画♪

□【4】
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「そうか。無理もねぇか…」

下腹部の痛みを無意識に両手で押さえて枕を濡らす俺を見下ろして、エリックは気付いてしまったようだった。

(嫌だ…エリック、思い出さないで)

忘れて欲しい。行きずりの男に、汚されてしまった記憶なんて。

「何でもない…何でもないんだ、エリック。心配しないで…」

きゅっと瞳を瞑って溢れる涙と共に搾り出していた言葉だけど、それが驚きに中途で途切れた。背中に感じる温もりに、俺はハッとして目を見開く。

「アラン。あれは、お前じゃねぇ。気に病むなって方が無理かもしれねぇが…」

背中に当たるエリックの鼓動にさえ身を竦めていた俺だったけど、更に後ろから腕がのばされ、胸の辺りを抱き締められた。

「エリック…!」

「忘れちまえ。…忘れさせてやろうか?」

「えっ?」

俺の早鐘に当たっていた、エリックの革手袋越しにも分かる熱い掌が、ゆっくりと腹筋からへそを通って下へと下りていく。全神経がそこに集まって、エリックの通った後が、火傷したように、あるいは氷を押し当てられたように、ジンジンと疼いて呼吸が速くなる。

「あ…や…っ」

エリックになら何をされても良いと思っていたけれど、まだ醜悪に痛むそこに触れられるのは身体が反射的に拒絶して、腕の中で暴れてしまった。

「あ…悪りぃ。お前が嫌なら、何にもしねぇよ」

途端、掌はスッと胸に戻った。背中に感じる心音が、ちょっとだけ速くなって、またゆっくりと時を刻みだす。トクン…トクン…それは俺の心音と共鳴するかのように、俺も落ち着かせてくれた。

「少しだけ、このままで良いか?寒いだろ」

エリックがそう思うのも無理はない。寒さに加え、今のエリックの行為を恐れ、俺は先よりもいっそうカタカタと震えていた。

「エリック…ごめん…」

「お前が謝る事は何もねぇよ」

横向きに枕に乗った頭と肩の隙間、項の下から逞しい片腕が差し込まれ、エリックはぴったりと俺の身体の形に沿うように膝を曲げて密着してきた。両腕でしっかり抱き込まれ、後ろ髪に鼻を埋めたエリックが、わざと他愛もない会話を続ける。

「…良い匂いだな。シャンプー何使ってる?やっぱトリートメントとかしてるのか?」

エリックの普段通りの口調と鼓動が、俺の涙を止めてくれた。大好きなエリックに心も身体も丸ごと包まれて、幸せとさえ言える暖かさが宿る。努めずとも、言葉は自然と赤みの戻った唇を割った。

「…トリートメントなんて、使ってない。俺の髪がボサボサなの、知ってる癖に」

「そうか?俺はアランの髪、サラサラしてて好きだけどな?」

「んっ…」

エリックの熱い息遣いが項に当たり、俺は思わず声を漏らす。でもエリックは、それを聞かなかった事にして、優しく髪をすいてくれた。

しばらくそうしてエリックに包まれて、俺は安心しきって身を委ねていた。けれどふと、さっきのエリックの言葉を思い出す。

『忘れさせてやろうか?』

エリックは確かにそう言った。

(どういう意味だろう。あれ、でも確かに、手があそこにいったような…)

エリックがすんすんと鼻を鳴らし、微かに首を振って俺の後ろ髪で遊ぶ。くすぐったさとは違う熱が、明らかにそこに生まれていた。規則正しく打っていた鼓動も、再び痛いほど速く脈打ちだす。身体中が心臓になったみたいで、エリックにはすぐに伝わってしまい、俺は妄想に身悶えた。

「あ…エリック、もう良い…離してくれ…」

反応し始める下肢だけは気付かれぬよう、そうっと呟く。でもエリックは、俺の望み通りにはしてくれなかった。──いや、真の望みを見透かされていたのかもしれない。

「あっ、駄目…っ」

エリックのゴツゴツした男らしい長い指が、芯を持ちはじめた自身の僅かに上、茂みの辺りを布越しにゆるゆると労るように撫でた。それだけで、俺は一気に昂ってビクリと肩を跳ねさせる。

(苦しい…おかしくなっちゃいそう…)

「やんっ…」

自分の声とは思えぬような甘ったるい音色が鼻に抜けて、俺は焦って唇を押さえた。

その時だった。俺の息遣いだけに満たされていた部屋に、間の悪い音が鳴り響いたのは。不意に温もりが遠ざかって、エリックが半身を起こし音の出どころを探るのが分かった。

Continued.

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