♪10万HITS企画♪

□【5】
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──ウィーン…。

その音は、部屋の隅のデスク上のパソコンからしていた。

「ったく、こんな時に…。ちょっと待ってろ、アラン」

エリックはサラリと俺の後ろ髪を撫でると、ベッドを出てデスクに向かったようだった。思わず俺は離れていく温もりを追って、振り返って半身を起こし、その背を見詰める。何とも言えず、心細い。視線の先ではエリックが、開いていたノートパソコンを、やや乱暴に閉じていた。パン!と音が上がり、エリックが苛立っているのが分かる。

(どうしたんだろう、エリック…)

不意に中断された行為に、まだ身体は火照っていたものの、エリックの不機嫌の原因が分からず俺は、少しだけエリックが恐くなる。ベッドに戻ってきたエリックに、俺は不安になって聞いていた。

「エリック…俺、何かした…?」

自然と上目遣いになる俺の頭を、エリックはいつものようにポンポンと撫でてくれた。どうやら、苛立ちは俺に向けられたものじゃないらしい。

「悪りぃ、アラン。恐がらせちまったな。お前が悪い訳じゃねぇんだ」

そう言って、エリックは精悍な瞳を細めて微笑んだ。

(わ…エリックって、こんなに優しく笑うんだ)

出会ってから初めて見るその甘やかな表情に、俺の心臓が再び跳ねた。エリックは、ベッドに腰掛け俺をそっと抱き締める。

「エリック…。どうしたの。何で…その…」

やめたの、と聞きそうになって、俺は羞恥に口をつぐんだ。けれどニュアンスは伝わってしまい、エリックは少し笑う。

「お前が心配だったから、派遣協会に医者を寄越すように連絡したんだ。そしたら…秘書課の連中が」

その言葉に、俺は血の気が引くが聞こえるような思いがした。思わず早口にエリックの言を遮ってしまう。

「連絡?誰に?ウィリアムさんに?」

「勝手にすまなかったアラン。でも、ウィリアムさんは口が固いから安心しろ」

知られてしまった。ウィリアムさんに。口が固いと言っても、ウィリアムさんから誰かに指示が飛ぶ以上、少なくとも他者にもそれが伝わるのは明らかだった。

「エリック…。俺、見ず知らずのお医者さんなんかに、身体を弄られたくない…」

エリックの逞しい胸板にすがって、僅かに涙声になる。俺を抱き締める腕にきゅっと力が入り、その声音には後悔が滲んでいた。

「ああ…そうだな。悪りぃ。慌てちまってよ。医者は断る」

そう言うとエリックは、先程と同じくデスクに向かい、パソコンを開いた。そして、画面に向かってキッパリと言う。

「聞こえてるか。医者は来なくて良いって、ウィリアムさんに伝えてくれ。じゃあな!」

再度パン!とノートパソコンを閉じ、エリックはため息をついた。

「え?エリック、協会とスカイプしてるの…?」

「違ぇんだ。秘書課の連中が、俺とお前の関係を騒ぎ立てて、でばがめしてやがんだ」

「えっ…!な、なんで分かったの?」

言ってしまってから、これは遠回しな告白に他ならないと気付き、慌てて支離滅裂に俺は誤魔化そうとする。

「いや、あの!何でエリックのパソコンから見られるの?!」

「ウイルスだろ。俺は詳しくねぇから分かんねぇけど。お前も気を付けろよ。…で、どうする?」

「えっ?」

一瞬、このまま続けるかどうかを聞かれているような気がして、一気に身体中が上気する。

「医者には行きたくねぇんだな?でも誰かに診て貰わねぇと。お前はどうしたいんだ?」

(あ…違った)

俺は自分の勘違いに、ドギマギとエリックから視線を逸らした。でも、エリックは俺を見詰めてる。苦し紛れに出した俺の答えに、エリックが少し驚いたのが分かった。

Continued.

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