♪10万HITS企画♪

□【6】
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「エリックに、診て欲しい…」

小さくだけど、ハッキリと俺は口にした。混乱した脳裏には、それしか浮かばなかった。エリックが驚きに精悍な目を見開き、ややあって俺の髪を優しく撫でてくれる。

「んっ…」

その感触に、僅かに首を竦める。他の誰に触られたって、こんな風になったりしない。いや、今は、他の誰にも触られたくなかった。俺を癒してくれるのは、エリックだけ…。

「アラン。俺なんかで良いのか?専門的な知識なんてねぇぞ」

「嫌だ。エリックが良い…」

思い詰めて見上げると、エリックはまたベッドに腰かけて、俺の顔を覗き込んで囁いた。

「顔色が悪いな…。大丈夫だ、アラン」

エリックは、いつもの傍若無人とも言える振るまいとは別人みたいに、優しく俺を抱き締めてくれた。

「辛かったな。もう誰にも触れさせないから、安心しろ」

そう言って、ゆるゆるとYシャツの背を撫でてくれる。その言葉は、安堵のあまり俺の目頭を熱くさせた。

「じゃあ、脱がせるぞ」

「えっ?!」

でも身を離したエリックの指がベルトにかかり、俺はハッとして身を引いた。エリックは、構わずに素早くカチャカチャとベルトを外す。

「え…やっ…」

「俺に診て欲しいんだろ?お前、首に絞められた痕がクッキリついてるんだぞ。下だって、確認しねぇと」

激しい躊躇いに身をよじったが、混乱して抵抗らしい抵抗も出来ない内に、俺はYシャツ一枚にされていた。下腹に食い込むエリックの視線が、物理的に痛い。

「やっぱり、痣になってるな…。ちょっと触るぞ」

「や…見ないで…っ」

涙声で哀願するが、つい先程の熱さとは対称的に、ヒヤリとした感触がへその下辺りに触れる。声を漏らしそうになってしまい、俺は必死にそれを押し殺した。

「…っ」

「…まさか…」

(何がまさかなんだろう…こんな痕を見られるなら、エリックに頼まなければ良かった…)

後悔に縮こまった下肢を、Yシャツの裾を引っ張って必死に隠していると、少し強引にエリックが俺の両手を握ってきた。気まずさに逸らす瞳を追いかけられて、思わず視線が外せなくなるほど真摯に見詰められる。

「アラン。気をしっかり持って聞けよ。お前………妊娠してる」

「?!」

声もない俺の代わりに、エリックがひとつ大きく溜め息をついた。俺はといえば、冷たい汗が背筋を伝って流れ落ちていくだけだった。

「昔…昔だぞ。女に騙されかけた事があるから分かる。その腹の張り…想像妊娠だ」

「そんなっ…俺は妊娠なんてしたくない!」

ようやく声を絞り出すと、エリックは瞑目して首を僅かに横に振った。

「妊娠したいって思ってる時だけじゃなく、絶対妊娠したくないって思ってる時もなるらしい、想像妊娠って。放っておけば、腹が大きくなってくる」

「…治療法は?」

かろうじて、震える吐息で訊いた。

「何百年も前だし、あの時ゃ、グレルさんに世話やいて貰ったからなぁ…。どうだったか…確か…」

エリックは、難しい顔をして後ろ髪をかく。

(あの男の…子供…)

頭の中に笑いの形に歪んだ男の唇が断片的に浮かび、不意に吐き気が込み上げて、俺は片掌で口許を覆った。

「う…」

「アラン!」

エリックの心配げな掌が、せわしなく俺の背をさする。だけど今や、俺にとってはそれすらが気分を悪くさせていた。

「つわりだ。しっかりしろ」

胃の中は空っぽで、吐き出すものもないまま、俺は身を追ってえづく。

「アラン、大丈夫だ…。今、治してやるからな」

ガンガンと痛む頭にそんな声が響くと、おもむろにエリックは俺を『治療』し始めた。

Continued.

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