♪10万HITS企画♪
□【7】
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「アラン、大丈夫だ…。今、治してやるからな」
そう言うとエリックは、サイドテーブルに置いてあった携帯を手に取った。何処にかけるのだろう、と俺は不安に揺れる。けどエリックがそんな俺の気持ちを感じ取ってか、安心させるように頭の上にポンポンと掌を乗せてくれた。
「──もしもし?グレルさんか?」
相手がグレルさんだと知って、俺は少しだけ不安が和らぐのを感じた。前回は彼…いや、彼女に、助けて貰ったとエリックが言っていたから。静寂の中に、幾らか高いグレルさんの声が僅かに漏れ聞こえてくる。
『アラ、エリック。ちょうど良かったワ。アランは大丈夫?』
「話聞いてるか?」
『ええ。ウィルに言われて、今アンタんちに行く所だったのヨ』
「そうか。悪りぃが、来なくて良い。その…昔あった、あの治療法だけ教えてくれ」
『そう…アランは今、『そう』なのネ…』
「ああ。誰にも触られたくないって、落ち込んでる…俺にも治せるか?」
『ええ。女だったら厄介だけど、アランは男だから、それを自覚させれば治る筈ヨ』
やや間を取って、グレルさんの声は更に凛と高くなった。いつもの破天荒さは成りを潜め、いざという時は頼りになる姉御肌が、声音に強く滲んでいた。
『行かなくて良いってんなら、アタシの仕事はここで終わり!守秘義務は守るワ。あとは…分かるワヨネ、エリック?』
「──ああ…。分かった。ありがとよ、グレルさん」
そう言って電話は、切られた。サイドテーブルにコツリと携帯を戻すと、エリックは俺に向き直る。
「アラン。今、治してやるからな…」
そう繰り返すと、俺をベッドに横たえ最後に残った着衣、Yシャツのボタンをひとつひとつと外し始めた。
「何…す…」
るの、と聞きたかったけど、具合の悪さに俺は少し咳き込んだ。素裸になった俺を、逞しいエリックの腕が軽々と抱き上げる。反射的にその項に手をかけ掴まると、エリックが微かに微笑んで俺を抱え直してくれた。
「風呂で洗ってやる。綺麗にしてやるからな」
エリックは俺をバスルームに運んでバスタブの縁に座らせると、シャワーから熱い湯を出した。そして自分も服を脱ぎ落とし、バスルームに入ってくる。
(わっ…エリック、凄い身体…)
俺は思わず、初めて見るエリックの裸体に見入ってしまった。逞しく隆々と盛り上がった筋肉、肩や胸にセクシーに残る古傷、浅黒く男らしい肌…。ヒトは自分にはないものを補おうとするって言うけど、痩せっぽちで色白の俺とは正反対だった。
「アラン、気分はもう悪くないだろ?」
呆けて彼を見上げていた俺に、エリックがやっぱり口角を上げながら尋ねてくる。無遠慮に身体を眺め回してしまっていた事に気付き、俺は頬を染めて俯いた。
「う、うん。今は平気」
「髪洗ってやるから、目ぇ閉じろ」
「え…うん」
有無を言わせない口調に、俺は素直に目を閉じる。熱い湯の後、ヒヤリと涼感のあるシャンプーが、エリックの手で泡だてられた。
(あれ…気持ち良い…)
あんなに辛かった気分が、泡と一緒に流れ落ちていくようだ。一見すると不器用そうにも見えるエリックのゴツゴツした拳が、長い指を器用に使ってシャンプーしてくれる。
「悪りぃが、リンスはねぇんだ。我慢してくれ」
「ん…」
また熱い湯がかけられて、手の甲で顔を拭っていると、今度は下肢に涼感が広がった。
「あっ」
ただでさえ敏感になっているそこに、スースーとするボディシャンプーを──しかもエリックの手で──つけられて、俺は声を溢してしまった。
「エリック…!やめっ…ぁんっ」
制止を聞かず、エリックの手が俺自身を握って柔らかく洗う。恥ずかしさのあまり瞳は瞑ってしまったものの、その感触が消える訳でもなく、俺自身は次第に頭をもたげ始めた。
「やっ…嫌っ、エリック…!」
必死にその手首を握って剥がそうとすると、エリックが小さく笑うのが分かった。自虐的な笑いだった。
「ああ悪りぃ、アラン…順番が逆になっちまったな」
耳にエリックの吐息が当たり、俺はギクリとして目を開ける。上身を折って俺を洗っているエリックの、自身が間近に見えた。驚いた事にそこは、俺よりも激しく、ブロンドの茂みを割って天を仰ぎエレクトしていた。
「エリック…?!」
「好きだ、アラン。でも言わないつもりだった。お前の幸せを奪っちまわないように」
「っあ、あ、うぅん…っ」
俺も好き、と言いたかったけど、滑める動きは早くなって、俺は言葉を紡げずただ喘いだ。
「でも、他の男に盗られるくらいなら、お前に嫌われたって良い、俺のものにしたい…」
耳元で囁かれる背徳感を含んだ低音も、俺を追い詰めるのに充分だった。
「あっ、あ、やぁっ──!!」
エリックの手で初めて迎えた絶頂は、簡単に先の男の事など忘れさせてくれた。身体の芯が痺れるように熱くなり、ゼイゼイと息をつく俺を、エリックがそっと抱き留めてくれる。
「すまねぇ、アラン…。あいつが許せなくて…俺のものにしたくて…」
シャワーの音に紛れてしまいそうなくらい小さな声で、エリックが言い募る。混乱と、戸惑いと、でもその二つを遥かに凌ぐ幸福感に包まれて、俺はエリックの勇気に応えるべく荒い息の下からハッキリ言った。
「エリック…俺、も…。俺もずっと、好きだった」
「…アランも…?!」
後悔にだろうか、歪んでいたエリックの顔が、信じられないといった驚きの表情に変わる。
「エリック、大好き…」
「アラン…!」
腕を伸ばしてエリックの項に絡めると、彼も俺の髪の中に指を差し込んできた。どちらからともなく俺たちは求め合い、夢中で唇を重ねていた。
Continued.