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□不如帰が散る頃は
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「ぐっ...!」

「弱いな」

ズタズタになった体を持っている刀で支えているナビの表情は笑っていた。笑うといっても、人間がよくするような微笑ではない。
無意識のうちに口角が引きあがっていて、その顔を見れはコイツの精神が半分狂っていること位すぐ分かった。

「まだよっ!!」

勢いよく踏み込んできたナビの斬撃をかわして、がら空きの背中にバスターを打ち込んだ。刹那、バスターのエネルギーを切り裂いたナビの瞳がこちらを見た。

戦いで煮え立った脳が一気に冷える。
プログラムの一つ一つが危険を察知した矢先、刀の切っ先が俺の頬を掠め、仕留めそこなったナビの口から舌打ちの音が聞こえた。

「貴様...!」

頭を握りつぶす勢いで掴んで地面に投げ飛ばせば、破損したデータを吐いて声を漏らすナビ。

仕留めそこなったコイツに、次の機会など与えはしない。
手の平にエネルギーを膨らませてナビを見据えた。

「この程度で俺は殺せない」

壊れかけた体は地面にめり込んで抜け出せる様子はない。だが、その瞳は鈍く光って心底嬉しそうだ。

「でも、今日は貴方に傷を負わせたわ」

今日はここまでね、と呟いたナビに吐き捨てる。

「次など...ないっ!!」

腕を振りかぶって最大まで溜めたアースブレイカーを放った。
聴覚を震わせる爆音と熱波。
崩壊した地面に、ナビの亡骸は無かった。

「...逃げたか」

地面に降り立ってナビがいた場所を見ると"今回も"あった紫色の花弁のプログラム。
摘み上げるとそれはポロポロと崩れて消えていく。

斬り付けられた傷が、少しだけ痛んだ。

「くそ」


少し前から俺の前に現れるようになったこの女型ナビ。今時古いソードではなく日本刀が武器で、逃げる時には必ず紫色の花弁を残していく。

そして、出会うたびにコイツは強くなっている。それでも俺の足元にも及ばないが。

オペレーターがいるのかも、名前も知らない、無駄に逃げるのが上手いナビ。
何度もコイツと戦うたびに予想は確信に変わっていった。

コイツは、俺と似ている。

闘うことでしか存在意義を見出せない、哀れなナビ。
狂った本能が戦うことで喜びを感じているのが、光る瞳に映っている。
唯一つ違うのは、コイツは俺よりも弱くて未熟だ。


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