フリー小噺

□小噺 ―桜の邂逅―
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桜吹雪。

吹いた瞬間それは柘榴の祠を覆って、竜尊の長い髪に、肩に、花びらが降った。

「今日は風が強いな」

言って自身についた桜の花びらを一枚、その長い指でふわりと摘み、ふっと琥珀色の瞳を柔らかに細めた後、名残惜しそうに指から解放した。

舞う桜のひとひら。

桜と言う遊び相手を得た風が両手を広げて楽しそうに吹いている中で、竜尊は近くの木にそっと手を這わせた。

「大きな傷ですね。竜尊がいじめたんですか?」

それまで口を閉じていた夢が口を開いた。

桜と風が起こす淡くて大きな波に、己の闇夜の黒髪を流して。

竜尊が撫でる桜の木にある、古くて竜尊より少し身長の低い傷。

「…ああ、昔な。…雨みたいなやつと少し」

当時のことを思い出しているのか、柔らかに口元を緩ませ、酸素を求めるように苦しげに琥珀色を細める。

沈めた記憶か、薄れゆく記憶か。

沈めたならば染み込んだ水の重さに耐えながら引き上げないといけない。

薄れゆく記憶ならば深い記憶に手を沈めて、掘り起こさないといけない。



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