フリー小噺
□小噺 ―桜の邂逅―
3ページ/8ページ
雨が、降ってきた。
小さな小さな雨。
軽くて地に舞う前に風にさらわれそうな雨。
そのひとつがぽつりと降りた。
淡色のひとひらの上に降り、儚い淡色は雨と共に地に下る。
淡色は雨と共に土に降り、そして三色混ざった色へと染まる。
淡色、雨色、土色となったひとひら。
もうひとつ、雨が降り、ひとひらと共に柘榴の祠に祀られている鏡へと張り付いた。
竜尊は木の傷から手を離し、鏡にはりついたひとひらに指を伸ばす。
しかし、淡色はとても儚くて。
「あ」
「…破れましたね」
雨を含んだひとひらは、しっとりと静かに裂けた。
鏡に張り付いたひとひらの欠片と自身が破いてしまったひとひらの欠片を見て「あーあ」と竜尊は苦笑する。
さぁっ、と風が騒ぎ出した。
悪戯しようか。遊ぼうか。
ばらばらに靡く黒髪を携えて、今度は夢が木の傷に触れた。
ひとひら。ふたひら。
いくつもいくつもの淡色がふわりと舞って、舞って。
ざぁっ、と風が大きく、強く吹いた。
桜吹雪の花吹雪。
.