フリー小噺
□小噺 ―桜の邂逅―
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雪のように辺りを包もうとする数多の淡色に思わず夢は目を閉じ、傷に触れていない手でやかましく騒ぐ風に応えようとする黒髪を手で押さえた。
通りすがりのような強風は瞬きの間。
それでも風は騒ぎ、止めるように桜は降りる。
だって、目を開けないんだもん。
そう言いたげに風はふぅっ、ともう一度、そっと吹いた。
――しゃらん
風が奏でた音と、手の甲に触れた柔らかい感触の淡色に導かれるように、夢はゆっくりと暗色の瞳を開けた。
視界を覆ったのは、桜の木々。
舞う淡色たち。構ってと謳う風。
一面覆う淡色に目を惹かれ、しかしひとつ気付く。
竜尊の姿がない。…それどころか、合わせ鏡のような目の前の淡色世界に夢は目をこすった。
――しゃらん
もう一度、先程の音が鳴った。
夢は音の方に目を向ける。
合わせ鏡のような不思議な世界。
ざぁっ、と舞う淡色の中に、その音はいた。
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