フリー小噺

□小噺 ―桜の邂逅―
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夢と同じように、片手を木に触れさせた、袈裟を着た身長の高い、そして紫陽花色の錫杖を持った若い――――


……あ。


紫陽花、で夢は思い出した。

竜尊の言葉を

『昔』

『雨みたいなやつと』

そして、今のこの現象。

鏡のような景色。

桜吹雪。

そして、雨みたいな…紫陽花が触れている桜の木。

夢が触れている桜の木と同じ傷がある、木。

夢と同じく、桜吹雪を受け流すように腕で顔を庇っていた紫陽花が腕を下ろし、辺りを見回して小首を傾げた後、夢を見て目を丸くした。

鏡のような世界に驚いているのだろう、と言うのが手に取るようにわかった。

先程自分が驚いたばかりだから。

ひとひら、淡色が舞った。

風が小さく囁きはじめる。

ひとひら、ひとひら、ひとひら。

ふたひら。

幾枚、幾十枚かが舞う中で風が少しずつ強くなる。

淡色の枚数も増えていく。

夢は理解した。

紫陽花は理解した。

彼女が誰で、どこにいるのかを。

視界が淡色に埋まりそうになる。




紫陽花は淡く、柔らかく笑んだ。

闇夜は綺麗に、静かに笑んだ。






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