Z組です、天才です!

□犬と日曜日
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―side 紅羽―

あたしは今、問題を抱えている。

…いや、直面している?

あたしはただ、日曜日にヒマを持て余すくらいならって気持ちで散歩に出ただけなのに…

こんな…こんな…

こんな可愛い捨て犬と直面するなんて…


「あんた、捨てられちゃったのね?こんな可愛いのに…」

目の前の、まだ生後何週間という子犬の頭を撫でれば、可愛らしく「クーン」と鳴く。

あー…可愛い。今、寮生活じゃなきゃ拾って帰ってる。

うちは牧場だから、動物を拾っても文句は言われない。

犬なんか拾ってくと、牧羊犬になるからと言って、寧ろ喜ばれる。

「…ここでこうしてても解決するわけじゃないしね。ちょっと待っててね」

あたしは立ち上がり、携帯を取り出して、琴乃に連絡した。

…だって、結希だと話通じなさそうだし、ね。

『もしもし?どないしたん?』

「あ、琴乃?今、ヒマ?」

『ヒマやねー。結希はんもヒマしてはるよ?』

「じゃあさ、ちょっと出てきてもらっていい?寮を出て―――」

と、琴乃にここまでの道順を教えて、携帯を切った。

あたしは、キラキラと目を輝かせている子犬を抱き上げる。

「よしよし…ちゃんと飼い主見つけてあげるからね…」

そうやっていると、向こうの道から周がやってきた。

あたしに気付くと、こちらに近づいてくる。

「周。偶然ね、こんなとこで会うなんて」

「あぁ、偶然…それはお前の犬か?」

「あたしゃ寮生活だよ。飼えるわけないでしょ」

「…そういえばそうだったな」

そういうと、周はあたしの腕の中の子犬を撫でた。

「可愛いな。迷い犬なのか?」

「ううん、捨て犬。ここに居たの」

ダンボールを指差すと、周は顔をしかめる。

「小さな命すら大切にできない奴など、高が知れているな…。
 で、それをどうするんだ?」

「里親を探そうと思って。人数も多いほうがいいと思ったから琴乃たちを呼んで――あ、きたきた」

周越しに向こうを見れば、駆けてくる琴乃と結希の姿。

「紅羽はん、きたよ。あ、周はんもいはったんどすか。
 で、用事って…わぁ、わんこやぁ!」

琴乃は子犬に気付くと、嬉しそうにわしゃわしゃと撫で始めた。

「かわええなぁ。うち、動物大好きなんどす。
 ちっちゃいなぁ、かわええなぁ」

夢中で撫でる琴乃に気をとられて、あたしと周は結希の姿が見えないことに気付かなかった。

周りを見渡すと、電柱の影に隠れている結希の姿が…

「結希?」

近づいてみると

「ぎゃあ!来ないで!!」

…と、悲鳴を上げられた。

「ああああああ、あたし、動物苦手で…犬とかもう…
 く、紅ちゃん、ごめん!!」

そういうと、結希は一目散に逃げ出した。

「あぁ!結希はん!…紅羽はん、結希はん一人にしとくと危ないとかやなく、危険やさかい、うち行くな。
 ほんま、堪忍どすえ」

琴乃も結希の後を追って行ってしまった。

残されたのは、あたしと周。

「…仕方ない、1人で行くか」

あたしはあきらめて、1人で行くことを決意した。

「待て。私も手伝う」

「え…マジで?」

「あぁ、とりあえず、真貴の家からでもあたってみるか」

そう言ってあたしよりも先に周の足が動いた。









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