Z組です、天才です!
□図書館と楽譜
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「まったく…結希のせいでつまみ出されたじゃん!!」
「あゆだって叫んだじゃん!」
結局教室に戻って、机をはさんで2人で喧嘩になった。
「とにかく、素人に作詞なんてムリ!」
「やってみなきゃわかんないじゃん!」
「ムリ!」
「やる!!」
「ムリ!!」
「やる!!!」
「結希の強情っぱり!」
「ほんならあゆは分からずやや!!」
あたしははっとして口を押さえた。
あたしたちの間にしんとした空気が流れた。
「…今の、大阪弁?」
「…わ、忘れて。」
あゆは背もたれにもたれかかった。
「ま、いいけどさ。とにかく、作詞はムリだよ」
あたしも気を取り直して、頬をぷうっと膨らませた。
「あたしだってやればできるもん。小説かいてるんだよ?語彙は豊富だし、言葉の選び方だって分かってるもん」
そのままじぃっとあゆを見つめてみる。
書かせろー、書かせろーと念を込めて。
すると、あゆは両手を軽く挙げた。
「分かった、降参。ただし、こっちからも条件つけるよ」
あたしは身を乗り出して、目を輝かせた。
「ホント!?やった!あたし、頑張る!」
「はいはい、まず僕の話を聞く!
歌詞を書いてもいいよ?ただし、期限は明後日までで、僕の母さんが認めたらそのまま使ってあげる。
もしも、母さんに認められなかったら、もう歌詞を書くなんて言わない!僕にひっつかない!いいね?」
あたしはうなづいた。
「うん、やる!!」
「じゃ、これ。楽譜のコピーね。メロディラインはここだから、この音符1つに1文字ね」
あたしはあゆから楽譜をもらって、丁寧にファイル入れた。
「明日には持ってくるね!ばいばーい!」
そして、あたしはさっさと教室から出た。
「…何なのあいつ。騒がしい奴」
「んー、あの曲聴いた限り、明るい曲だったんだよねー。…でも、楽器がラッパとかじゃなくて、ピアノとかフルートとか、優しい音だったからなぁ…」
夜7時、寮の食堂のテーブルにひじをついて、歌詞を考える。
最近、小説ばっかり書いてたから作詞は新鮮で楽しい。
「結希、先戻ってるよ」
「結希はん、お風呂どないする?」
少し離れた場所から、紅ちゃんとことのんが声をかけてくる。
「あ、お風呂最後でいいよー」
「わかったわ」
「早く来てなぁ」
2人に軽く手を振って、目の前の楽譜に目を落とした。
「ただ明るいだけじゃないよね。目立つシ、シンセー…シンサセイザ?…あ、シンセサイザーか。それが明るいって感じにしてて…」
あんまり良くはない頭で考えた結果は…
「そっか、片思いなんだね。たぶん、好きな人にも好きな人がいるんだ。
その人の前で、見た目だけ気丈に振舞って、心の中ではもやもやして…応援したいのに、応援できないんだ」
うん、きっとそう。
解釈できてしまえば、あとは勝手に筆が動くと言ったもんよ!
まず書いてみて、文字数は後で添削すればいいんだから―――
―side 歩―
「歩…今日は元気ないのね?」
「そう見えるなら、疲れてるんじゃない?僕はいつも通りだし」
夕食は、母さんと一緒だった。
父さんは今日は特に忙しいみたいで、テレビ局に行ってる。
「ねえ、母さん。…作曲って、簡単だと思う?」
僕が聞くと、母さんは驚いたような顔をした。
そして、ふっと笑うと持っていた箸をおいた。
「歩がそう言うこと聞くとは思ってなかったわぁ。
誰かがそういうことを聞けば、いつも歩は「これが簡単なら、専門なんて必要ないでしょ!」って怒るのに」
そう言って母さんにくすくす笑われて、なんだか恥ずかしくなった。
「い、いいから…で、どうなの?誰にでもできると思う?」
「そうねぇ、書くだけなら誰にでもできると思うわ。
でも、曲の深層心理を理解して、尚且つ歌い手と聞き手に共感を持たせるような歌詞を書く人って…両手に納まるほどしか居ないんじゃないかしら?」
「ふーん、じゃあ母さんも、その両手に納まるほどの1人なんだ」
そういうと、母さんはまた静かに笑った。
「ホント、今日の歩は変ね。でも、そういうことよ。
作詞のこと聞くなんて、歩も興味を持ってくれたのかしら?センスはいいのに、いつも適当に書くんだもの」
「いいの。僕は歌詞よりもまず、曲でその気持ちが伝わらなきゃいけないと思ってるから。
歌詞なんて、おまけでしょ」
「うふふ、今の一言、母さんの仕事を全否定した言い方ね。
でも、歌詞がなければ、その人の勝手な解釈で終わって本当のことは見えないのよ?」
「わかる人だけ分かればいいし」
「あら、じゃあ歩はわかる人だけが自分のCDを買えばいいと思ってるの?
歩は"皆"に聴いてもらえなくていいのね?」
「…」
僕は何も言えなくなってしまった。
いつもぼけっとしてて危なっかしいのに、こういうときだけ納得するようなこと言うから、母さんは強敵だ。
「うふ、今日も母さんの勝ちね。じゃあ、機嫌が悪い理由を教えて頂戴?」
僕は重い口を渋々開いた。
「同じクラスの女子が、僕の曲に歌詞つけるって言って聞かないから、明後日までに書いて、母さんが認めたらそのまま使ってやるって言った。」
「あらぁ…それは酷なことしたわね。私が認めた子っているかしら…?
でも、なんとなく分かったわ」
「何がだよ」
顔を上げると、母さんは嬉しそうに笑う。
「お気に入りなのね、その子。きつい条件出しちゃったから、自己嫌悪してるのよね、歩は」
「なぁ…!?」
僕の顔は一気に熱を帯びた。
お気に入り?
あいつが!?
「まさか!ばか言わないでよ!母さんうざい!」
「歩の"うざい!"には、愛があるのよねぇ」
「何であいつと同じこと言うの!?もういいし!ご馳走様!」
僕は箸をテーブルに叩きつけて、部屋へ向かった。
「はいはい、お粗末さまでした」
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