Z組です、天才です!

□図書館と楽譜
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―side 結希―

「あゆー、お早う!」

あたしはことのんと紅ちゃんを置いて1番に寮を出て、急いで学校へきた。

あゆはいつも学校には1番のりだから、あたしもできるだけ早く来るようにした。

「朝からうるさいんだけど…頭に響くし…ふわぁ…」

あたしを見て、大きく欠伸。

入ってきたとき、ヘッドフォンして机に突っ伏してたから、寝てたんだ。

「寝てたとこ、ごめんね」

あたしの席は、あゆの席の1つ前。

かばんを乱暴に机に置いて、あゆのほうを向き、座る。

「ホントだよ…じゃあ僕、寝るから。お休み」

「わわわ、まだ寝ないでよ!歌詞、書いてきたよ!」

「…ん」

あゆは不機嫌そうに体を起こし、手を差し出した。

あたしは急いでかばんをあさり、ファイルごとその手に乗せる。

「龍兄に歌って欲しいから、男の子目線で書いてみたの!
 …ところで、何でお母さんに見せるの?」

「母さん、作詞家だから。僕じゃ専門的なところまでわかんないし」

「さ、作詞家…」

聞いて、顔から血の気が引いた。

あ、あたしはそんな人にこれを見てもらうんだ…

「…何震えてんの」

「い、今更緊張してきたところ…」

「ばか?…ま、いいけど。これ、僕も見させてもらうからね」

「Σえぇ!?」

「何で驚くの。曲作った本人の解釈と合ってなきゃ、意味無いじゃん」

「そ、それはそうですけれど…って、ここで見なくてもいいじゃん!?」

あたしはあゆの手からそれを取り戻そうとしたけど、身長で男子に敵うわけがない。

「…これ、母さんに渡しておくから」

「…はい?」

「あ、今日僕、放送当番なんだよねー。ばいばーい」

そう言って、ひらひらと手を振っていくあゆの後姿を呆然と眺めていた。

「…とりあえず、第一関門クリア?」



―side 歩―

友達に囲まれて キラキラと笑うお前の顔は
俺の今日の エネルギーへと変わる
お前の心 深層心理
表情から 読み取ることはたやすい


「いいことあったんだろ?」と聞けば
「わかる?」の一言 最高の笑顔
俺の好きな お前の笑顔
作ってくれるのは あいつだけ


お前が欲しいと 素直に言えるほど
子供ではないけれど
簡単にこの気持ち 割り切れるほど
完成した大人になんか なれやしない


だから叫ぶんだ 声にはならないけど

I want your hart!!


強引に手を引いて 授業から抜け出して
体引き寄せて 抱きしめて
そういうの好きだろ? いつも俺に話してる
全部俺がやってやるよ お前の好きなこと
お前の"好き"は 俺の"好き"

お前があいつを大切に思うなら
俺だってあいつが大切さ


「…1回聴いただけなのにさ。何で分かんのかな」

帰ってから、ずっとベッドの上で歌詞の書いてある楽譜を眺めてた。

さっき、母さんに完成した曲を渡してきた。

今、きっと聴いてるとこだから、終わったらきっと来るな。

「…ほんと、何で分かるんだろ」

騒がしくてさ?人の気持ちなんて汲み取ろうともしない。

僕が引っ付くなって言ってんのに、くっつくし。

…だから、あいつがここまで僕の曲を理解したことが、腑に落ちない。

言葉の選び方、結構ストレート。

でも、明るい曲だし、きっと若い層の人が聴く曲なら変にこじらせないほうがいい。

「…音数、ぴったりだし―――って、うわっ!!」

寝返りを打った瞬間、真横に母さんの顔があった。

「歩、さっきからずっとそわそわしてるわね。」

「何でもいいけど、入るときはノックしてって何回言ったら分かるの!?」

「あと5回くらいかしら?
 曲聴いたわ。明るくて、楽しそうな曲ね。そうなると、聴くのは若い子が多いでしょうね。
 楽器はシンセ、ピアノ、フルート、ドラム…こんなところかしら?優しい音色のものを選んでたわね。なのに、シンセだけが飛び出て明るくなってる感じかしら」

曲の構成、聴くであろう年齢層。

分析力は、きっと母さんのほうが上だ。

「解釈に入るわね。
 この曲想を考えると、ラブソングかしら?後ろの音が柔らかいから…シンセは見た目だけ明るく振舞おうとしている。心の底では、もやもやしてるのにね。
 でも、ただのラブソングなら…歩ならバラードにするわ。と考えると、好きな人にも好きな人が居て、応援したいのに応援できない。
 …と、私は解釈したの。どうかしら?」

…ホント、母さんの分析力は尊敬に値するよ。

と思うだけで、絶対口にはしてやらない。

だから代わりに、結希の書いた歌詞を渡した。

「あら、これが昨日言っていた子が書いた歌詞ね?」

母さんは受け取るなり、じっと考え込むように歌詞を見ていた。

そして、顔を上げてふぅっとため息をついた。

「…ダメ」

「え…」

ぽろっともれた本音に、僕は慌てて口を押さえた。

「解釈自体はできてるわ。それに、ストレートな言葉を選んだことも、この曲を聴く年齢層を考えれば、すごくいいことだと思う。
 でもね、この歌詞では、本当に伝えたいことは伝わらない。曲に共感することはできても、歌詞に共感することは…私にはできない」

僕は膝の上で痛いほど手を握った。

あのときの感じと同じだ。

認めて欲しかったのに、認められなかったあのときと…

「センスはいいのよ。言葉の選び方も、すごくいいわ」

「じゃあ、何でダメなのさ!」

気付けば、僕は声を張り上げていた。

「さっきも言ったでしょ?私には共感できないの」

「でも、僕は分かる!伝えたいこと、僕には伝わった!」

「そう、問題はそれなのよ」

母さんははぁっとため息をついて、頭を抱えた。

「この歌詞、歩のことしか考えられてないのよ。
 きっとその子、歩のことが好きで好きで仕方ないのよね。その気持ちばっかりが先走って、歩へのラブソングになってるの」

僕への…ラブソング…?

だから僕には伝わっても、母さんには伝わらないの?

「でもね、素人でここまでできればすごいわ。今の私にとっては及第点でもね、昔の私には書けなかったと思うわ。ここまで理解できないもの。
 だからね、半分合格で半分不合格」

「じゃあ、どうしたら合格になるの?」

…何を聞いてるんだ僕は。

不合格になったら、僕にとってはものすごく都合がいいってのに、こんな…合格して欲しいような言い方して。

すると母さんは、楽譜で口元を隠して嬉しそうに笑った。

「ふふっ…母さんね、歌詞を作るときは1人で作るわ。でも、それは基盤でね、その後からは歌い手と、作曲家の人と一緒に相談するの。
 3人が納得したら完成よ」

そして母さんは、僕の額を人差し指でピンッとはじいた。

「痛っ」

「つまり、条件を出した歩にも問題があったわけです。分かりましたか?」

僕は額を押さえて、小さくうなづいた。

「いい子ね。見せに来てくれたら、いくらでもアドバイスするわ。そのときは、3人で来るのよ?」

母さんは僕の頭を、まるで可愛いものをめでるかのように撫でくり回す。

「止めてよ!子供じゃないんだから!…それに、今はまだ2人だし…って、何で僕と結希が一緒に作ることになってんの!?」

「そーお、結希ちゃんって言うのね?ちゃんとその結希ちゃんと一緒に来るのよ?じゃないと見てあげないからね?うふふふ〜」

いたずらっぽく笑って、母さんは足取り軽く部屋から出て行った。




…もういいや。抗議するのも面倒臭いし。

僕はおもむろにケータイを取り出した。

『もしもし、あゆ!?結果、結果は!?』

その奥からは、騒々しいほどの大声。

「うるさいっての。いい?明日から放課後は教室に居ること。…一緒に歌詞作るよ。」

『ほ、ほんと?やったぁ!!合格なんだね!』

「ちーがーうーし!まだ半分なの!だから、残りの半分を取りに行くよ。
 …それと、明日、龍生に用事あるから、言っといて」

『うん!連絡しておく!あゆ大好き!』

さすがにそろそろ耳が痛くなってきた。

「そこ、指摘されたんだから直しなよ?それに、さっきから大声だし、うざいし!」

『愛のあるうざいをありがとう!じゃあ、また明日ね!』

「ちょっと!あ、おい!…切ったし」

向こうから一方的に切られたケータイを見つめて、僕はため息をついた。

また明日から、騒がしくなるんだろうな。毎日騒がしいけど。

…でも、退屈しないで済みそうだ。












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