Z組です、天才です!

□北十字星
5ページ/6ページ

俺の足は、自然とプラネタリウムに向かっていた。

「ここは…」

昔、父さんと母さんと一緒に通った場所だ。




「昔と全然変わってないや」

中に入って、席につく。

平日の午前中だからなのか、他には殆ど人がいない。

静かな静かな会場。

そんな中、上映が始まった。








思い出したくない。

そう思ってた。



「父さん…母さん…」



北十字が、俺の記憶を無理矢理こじ開けた…









父さんと母さんは、アメリカで出会った。

アメリカ人の父さんが、観光に来ていた日本人の母さんに一目惚れしたのがきっかけ。

結婚まではあっという間だったらしいけど、父さんの親戚が母さんのことを認めなかったらしい。

だから、入籍はアメリカでして、あとは駆け落ちのごとく日本での生活をはじめた。

その二人の間に生まれたのが、俺だった。

父さんの仕事も安定してて、小5くらいまではそれなりに幸せに暮らしてた。


だけど


父さんが、会社の人に殺された。

正確には、過労死だ。

外国人労働者は賃金が安いらしく、会社にいいように使われていたらしい。

父さんを亡くした悲しみで、母さんは毎日泣いてた。

そして、母さんも死んだ。

父さんのいない日々には堪えられないと書き置きを残して、部屋で首を吊っていた。

第一発見者は俺だった。

テレビでは連日俺の家族のことが放送された。

身寄りのない俺は、どうすることもできず一人で家にこもった。

それからというもの、俺はファーストネームを捨てた。

名字も名前も、目立ちすぎるからだ。

そんな絶望にくれていた俺を助けてくれたのが、あゆのお父さん、進さんだった。

『グレイくん、俺の息子にならないか』

初めて手を差しのべてくれた進さんを、俺は信じた。

『歩、グレイ、これだけは覚えておけよ。嬉しいときも苦しいときも、過去はいつまでも付きまとう。もし、過去の自分に捕らわれそうになったら、そのときは…』






気付くと上映は終わっていた。

「進さん…あの時何て言ってたっけ…」

心のわだかまりが消えないまま、俺は会場をあとにした。





.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ