Z組です、天才です!
□元カノとフランス語
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「Gray…?Oh , Gray!」
次の瞬間には僕の肩から手が離れ、代わりにグレイに抱きつきている。
お陰さまで僕は尻餅をついてしまった。
「あゆ、大丈夫?」
心配そうに手を出した結希の手をつかみ、立ち上がる。
「大丈夫じゃない…ていうか、お前とグレイ、今朝からどこ行ってたの?」
「今日はオープンスクールだから、そのスタッフだよ」
「ああ…そうだったの…」
そう言えばそんなこと聞いたような聞いてないような…
「ところで歩さん?」
「は?何?」
「みんな、あの子のこと聞きたそうにしてるけど…」
そう言ってグレイたちを指差す結希と、僕を見つめるみんなの目があった。
「Je suis desole(ごめんなさい)、自己紹介が遅れました。私、白鳥女子中3年のマリア・パピヨンと言います。マリアと呼んでください」
みんなを回りに集め、マリアに自己紹介をさせた。
案の定、オープンスクールに参加していたところ、僕を見つけて声をかけたとのことだ。
みんなも軽く自己紹介をして、とりあえずお互いを認識した。
「マリアちゃんは歩とグレイと知り合いなのかい?」
叶が腰を低くして、目を合わせて聞いた。
「ノン!そんな程度じゃありません!私はアユムの家の事務所に所属している声優で、グレイは同期です」
「せ、声優!?」
その単語に、結希がえらく食いついた。
「Oui!日曜朝8時の、クッキングスイートというアニメを知っていますか?」
「うんうんうんうん!知ってる!」
クッキングスイートというのは、小さい女の子向けのアニメで、
かなりの人気を誇っている。
知ってるってことは…多分結希も見てるんだな…
「その主人公の、スイートメープルの声をあてています」
おお!と周りから声が上がる。
「じゃあ、マリアちゃんは現役中学生声優ってことですね!ふおおぉぉ!すごい!まさかお目にかかれるなんて!」
興奮しすぎて、変な舞を踊り始める結希。
ちょっと…きもい。
「ところで、今日はオープンスクールに参加していて、今は自由見学の時間なのですが…広すぎて、迷ってしまいそうなのです。だから、先輩方どなたか…」
マリアはそういうと、僕らを見回して
「学校案内、シルブプレ?」
小首をかしげた。
「じゃあ、俺が案内する!聖、let's go!」
「Merci!」
グレイは颯爽と前に出て、マリアの手を引いて出ていってしまった。
一瞬の静寂か訪れ、
次の瞬間、全員が僕を振り返った。
「な、何!?」
僕がうろたえて後ずさると、詰め寄るように近づいてきて、みんながそれぞれ矢継ぎ早に質問する。
「マリアちゃんてハーフなの!?」
「さっきの何語!?」
「グレイが言ってた聖って何!?」
「わかった!分かったから!一つずつ答えるから!」
僕はみんなを払い除け、体勢を立て直す。
「まず、マリアはフランスと日本のハーフ。だから、さっきからちょいちょい出てきてたのはフランス語で、英語と日本語も話せるトリリンガルね」
とりあえず、マリアの素性については明らかにした。
あいつ、理系教科はからっきしなのに、語学だけはすごいんだ。
「で、聖(ひじり)っていうのはマリアの和名。あ、でも軽々しく呼ばない方がいいよ。めっちゃ機嫌悪くするから」
すると、真貴が首をかしげる。
「じゃあ、何故グレイは許されてるんでしょうか?」
まあ、もっともだ。
グレイだけ許可されているのは不思議だろう。
「ああ、あれ、付き合ってたの。マリアはグレイの元カノなんだ」
すると、また教室が静まり返る。
あれ、僕変なこと言ったかな…?
「も、元カノ?」
琴乃が目を丸くして呟いた。
「そ、元カノ。グレイが中2の時から付き合いはじめて、高校入ってすぐ別れちゃったんだ。周りから応援されるような、いいカップルだったんだよ」
「知らなかった…でも、不思議じゃないよね、グレイが一番交流の場が広いんだもの」
紅羽は初めは驚いていたものの、もう落ち着きを取り戻している。
「喧嘩で別れた、などではないのか?」
周ま食い付いてくるのは珍しい。
「違うよ。例え別れても、マリアがグレイを嫌いになれるわけがないんだ…」
僕はうつむいた。
周りは不思議そうな顔をする。
でも、そうなんだ。
別れたのが不思議なくらい、仲がよかったんだ。
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