Z組です、天才です!
□秘密と後悔
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「落ち着いたか」
「うん…ごめん…」
「謝るな。そういうときもある」
まだ鼻をすすっている紅羽にティッシュを差し出した。
近くで見ると、その痕は生々しく見える。
「これね、中学の時に付き合ってた人からつけられたの」
紅羽は鼻をかむと、痕をなぞりながら言った。
「高校生にナンパされて舞い上がって、付き合って。その後に、実は怖い人だって知って…」
言葉の途中で、紅羽は目を閉じた。
「別れ話を持ち出したら、土産だって、タバコ押し付けられた。顔だけじゃない、背中にも残ってる」
肩が震え出した。
きっと、思い出してしまったんだろう、その時を。
「たった…たった1度の間違いだったのに…それだけで、みんなの目が変わってしまって、行き場がなくなったの」
私には想像できない。
タバコの火が目の前に近づいてくる怖さも、
つけられた痕の痛みも、
頼るところのない辛さも。
「こんなこと、誰にも話せなくて…結希も琴乃も気付いてるけど、話せなくて…!」
紅羽は目を開けない。
私の顔を、その目に写したくないのだろう。
きっと、何人もの驚きと恐怖の表情を見てきたはずなのだから。
「紅羽、目を開けてくれないか」
私はその手をとり、優しく呼び掛けた。
「やだ。だって、きっと、周も驚いた顔してる。見たくないの、あたしを見て驚く顔なんて」
私の手に涙が落ちる。
「なら…これで見えないだろう」
私も、こんなに辛そうな姿を見たくない。
だから…
私は立ち上がって、その肩を抱き寄せた。
「私には、紅羽の体験した恐怖や辛さは分からない。だからせめて、側にはいてやりたいと思う。大丈夫だ、大丈夫だぞ…」
子供をあやすように、リズミカルに背中を叩きながら
何度も何度も、大丈夫だと言い聞かせた。
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