Z組です、天才です!

□腹痛と特効薬
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「聖…来てくれてありがとう…」

霧斗は汗にまみれた顔で笑う。

私にはそれが痛々しかった。

「頑張りすぎだよ…無理しすぎだよ…」

私はキャスケットを脱ぎ、側に座った。

「だって、俺の周りのみんなはどんどん前に進んじゃうから、俺も頑張んなきゃって思って」

そんなことを言っていつも無理をするから心配になるの。

私が顔を歪めて霧斗を見つめると、にへっと笑う。

「そのキャスケット、まだ使ってくれてるんだね」

「…大事なものだから」

私はキャスケットを手に取った。

これは、霧斗が初めてプレゼントしてくれた帽子。

捨てられるわけがない。

「ありがとう、大事にしてくれて」

そう言って私の手をとった。




何だか泣きそうだ。

この部屋に来ると、二人きりになると

また昔に戻ったように錯覚してしまう。

戻りたい。

幸せだったあの頃に戻りたい。

霧斗を見ていると、どうしても思ってしまう。

だから私は目をそらした。

すると、ベッドの側の机に、カットフルーツ入りのヨーグルトが置いてあるのが見えた。

「ああ、それ、聖の前に見舞いに来てくれた人がくれたんだ」

その言葉に、霧斗の方を向いてしまった。

「俺がいつもフルーツ入りのヨーグルト食べてるの気づいてくれてたみたいで」

真っ赤な顔して、嬉しそうに笑う。

私には、痛い笑顔だ。

思わず、側に置いていたお見舞いを背中に隠してしまう。

「…そっか、私も何か買ってくればよかった」

「いいんだよそんなの。来てくれただけで、元気が出たよ」








「あれ、渡さなかったの?」

部屋を出ると、そこには待ち構えていたかのようなアユムが。

アユムは私が手に持った袋を見て、不思議そうに言う。

「後でグレイにあげて。私からって、言わなくていいから」

にっこり笑って、袋をアユムに押し付けた。

「でもさ…」

つかつかと出ていこうとする私の肩を、アユムが掴む。

私は立ち止まった。

「コトノさん、来てたんでしょ?」

私は俯いたまま、呟くように言った。

「そうだけど…でも僕はマリアの方が…!」

アユムが言わんとしていることは分かる。

私だって戻りたい。

戻れるものなら戻りたい。

霧斗だって、この前の苦しそうな表情を見れば、上手くいってないことくらい分かる。

それでも、私たちが選んだ正しさだから。

霧斗は進むことを、私は留まることを正しさとしたから。

でも…

「アユム…正しい正しさって何だろう」

アユムは何も言わなかった。





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