Z組です、天才です!

□救いと決意
2ページ/5ページ

「…ということになったんだー」

その日の放課後成瀬くんと約束したことをあゆにも報告した。

あゆには先に相談していたから、心配させないように、ちゃんと伝えた。

すると、あゆは何か考え込むようにてをあてて、あたしにあることを言った。

「そ、んな…」

あたしは自分の耳を疑った。






「ん、紫波。おつかれ!」

荷物をまとめて昇降口に向かうと、成瀬くんが待っていた。

「じゃあ帰ろっか」

あたしの手を引いて進もうとする成瀬くん。

あたしは思わず振り払ってしまった。

「紫波…どうした?」

不思議そうな顔をして振り返る成瀬くんに、あたしは震える声で言った。

「あの、成瀬くん…」

「ん?」

優しい笑顔で近づいてくる成瀬くんに、思わず後ずさる。

「ど…どうしてあたしが寮に入ってることを知ってるの?」





『あゆ、どうかしたの?』

あの時、あゆは何かを考え込むようにずっと黙っていた。

『いや…結希って、見た目の割に口は固い方だよなと思って』

『なんか失礼なこと言われたけど…』

『結構褒めてるつもりなんだけど!…あのさ、結希ってその成瀬ってやつと仲いいの?』

あたしは首を振った。

委員会が一緒なだけで、そんなに仲がいいわけでもない。

『話しはするけど、委員会の話くらいだよ』

『そう、なら、おかしいことがひとつあるね』

あゆの言葉の意味がわからなくて首を傾げた。

すると、あゆから発せられた言葉に、あたしは体から血の気が引いた。

『そいつは、何で結希が寮に入ってることを知ってるのかな』







その後、あゆは後から行くから昇降口で待っているようにあたしに言った。

それが凶と出て、成瀬くんと鉢合わせてしまったのだ。

「何でって…他の子から聞いたんだよ」

「他の子って…あたし、Z組の人にしか言ってないし、成瀬くん、Z組に知り合いいないでしょ?」

成瀬くんは1歩ずつ距離を詰めてくる。

「あ…ほら、帰る様子を見たんだよ!」

あたしは1歩ずつ下がっていく。

「そんなわけない…あたし、帰るときいつも一人だもん…まわりに誰もいないもん…」

成瀬くんは顔に笑顔を張り付けたまま、あたしを壁際まで追い詰める。

そして、もう言い訳は効かないと思ったんだろう、

表情を変えずに、あたしに言ったんだ。





「どうして気付いたの?」




「いつか怖がって俺を頼ってくれると思って、やっとこのときが来たと思ったのに…」

ダンッ

あたしの顔の横に手をついて、あたしを見下ろした。

「ねえ、梅村くんなんかやめて、俺にしなって。紫波は梅村くんにいいように使われているだけ。いつか捨てられるよ…」

笑顔で、言葉で…あたしを追い詰める。

「俺は捨てないよ、ずっと一緒にいてあげるよ…だから…」

怖い…怖い!

涙で視界が滲んだ

「助けて…あゆ…」

涙と共に、救いを求める言葉が溢れた。







「ちょっと、何してんの」

その声に、あたしは俯いていた顔を上げた。

「あ…ゆ…」

「そいつさ、僕と帰るんだよね」

あゆは仏頂面のまま近づいてきて、成瀬くんを押し退けてくれた。

「僕の作曲のパートナーなんだよね…怖がらせてんじゃねーよ」

あゆは成瀬くんにそれだけ言って、あたしのことを寮まで送ってくれた。





あたしは、

あゆにそう言われたときの成瀬くんの顔を忘れられないだろう。




.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ