Z組です、天才です!

□冬休みとお兄ちゃん
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―side 叶―

琴乃ちゃんのお母さんへも挨拶を済ませて、みんなで部屋に集まっていたときのことだった。

「失礼しますー」

廊下から関西訛りの男の人の声が聞こえてきた。

「この声は…」

その声にいち早く反応した琴乃ちゃんが小さく呟いた。

襖が開くと、お店の制服を着た、俺たちと同い年くらいの男の人が立っていた。

「お嬢…お久しぶりですうぅぅぅ!!!」

そして、遠慮もなしに入ってきたかと思うと、迷いなく琴乃ちゃんに抱きついた…!

な、何だこの人…!

なんかグレイみたいな奴が来た!?

「ちょ、やめて!」

「だって半年ぶりくらいやないですかー。俺寂しくって寂しくって!」

「それでも…!やめてってば!」

琴乃ちゃんは心底嫌そうにそいつを引き剥がした。

「もう…みんな堪忍ね。これ、幼馴染みの猪野秀水(いのしゅうすい)」

「幼馴染み兼お目付け役の秀水や。みんなの1個上やで、よろしゅうな!」

にかっと笑う秀水さん。

なんか、グレイと白馬さんを足して割った感じかな?

「で、何しに来たん?用がないなら戻ったらええよ」

琴乃ちゃんは早く帰れと言わんばかりに秀水さんを追い返そうとする。

何かこんな琴乃ちゃんは珍しいな。

「そないなこと言わんといて!どーせみんな暇してるだろうからって、奥様が厨房解放してくれはったんですよ」

「ほんまに!?じゃあ、あれ作るから準備しといて!」

「承りましたぁー」

秀水さんは嬉しそうに部屋を出ていく。

なんのこっちゃわからない俺たちは頭に?マークを浮かべるばかりだ。

そんな俺たちに、琴乃ちゃんは笑顔でこう言うのだ。

「みんな、和菓子作ろう!」





「琴乃、あんた料理できるんじゃない!」

「ほんとほんと!これお店に出てるやつでしょ!?」

俺たちが作った和菓子の『錦玉』が運ばれてくると、女の子たちがわっと騒ぎ立てる。

驚くのも無理はない。

調理台の前に立った琴乃ちゃんは、昔の調理実習からは想像できないほど手際がよかった。

「せやろー、お嬢は昔っから和菓子作りだけは上手いんやでー」

琴乃ちゃんの隣に座る秀水さんは、もっと褒めろと言わんばかりの顔をしている。

「秀水、琴乃とはいつから仲いいの?」

歩は自分の作ったそれを写真に納めながら聞いた。

「いつから…いつからですっけ?」

「なんや、忘れたんかいな。幼稚園からやろ」

「せやせや!俺のおかんがここ連れてきてくれたんやった!」

「忘れんといてよ!」

きゃっきゃと楽しそうにする二人を、俺は遠目から眺めていた。

そんな俺の様子に気付いたのか、瑞樹が俺の側に寄ってくる。

「ご機嫌ななめ」

「うるさい」

「幼馴染みってあんなもんじゃん。叶だって分かってるだろ」

「…分かってるけど」

もう一度顔を上げ、二人の様子を見た。

琴乃ちゃん、俺にはあんな風な態度しないのに…

「…!」

秀水さんに目線を移したとき、一瞬だけど目が合った気がする。

その目線は、背筋に悪寒が走るほど冷たくて…


「さて、俺もそろそろ店に戻らなあかんな。じゃあみんな、ゆっくりしてってなー」

どれくらいここで話し込んでいたのだろう、

秀水さんは立ち上がって部屋を出ていった。

あの目線…

嫌な予感が拭いきれない。

「…嫌だねえ、何で俺ばっかり邪魔が入るんだろう」

思わず呟いた。








「…お嬢には手ぇ出させへんからなー、叶くん」





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