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□決戦前夜(L)
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とてもとても幼い頃に貴女と約束をした。
『ずっと一緒にいよう』と。
まだほんの子供だった私達は、笑ってそう誓い合った。
二人、共に生きることがまるで当たり前のように――。


子供の頃は良かった。
言葉にしたこと全てが真実になると信じて疑わなかった。
大人になれば見たくない現実にぶつかり、知りたくない真実を知り、そして気付かぬ内に汚されていく。
そしてその汚された世界で生きていくのが、私の生き方だ。

私の胸の中にある唯一の光。
幼い頃に交わした貴女との約束。

仕事に就いてからは、彼女は助手として色々私の世話を焼いてくれる。
危険な仕事だというのに『少しでもLの手助けをしたい』と言い、自らこの仕事を志望したと笑って言うのだ。
だが、それでも毎日一緒にはいられない。
仕事に行く前、離れる時に彼女は決まってこう言うのだ。

「いってらっしゃい」と。
笑って私を送り出してくれる。

仕事が終わり、帰った時にはこう言うのだ。

「おかえりなさい」と。
笑って私を出迎えてくれる。

だけど、今回は長く貴女と離れる事になるだろう。

『ずっと一緒にいよう』と誓い合った遠い日の約束。
あの時の純粋さと素直さと無垢な笑顔、心…今は少し思い出すのが辛い。
約束の一つすら守れない自分が不甲斐ない。

今回の「キラ事件」。
貴女を、連れて行くわけにはいかないんだ――。



明日、私は戦いに出向く。
ICPOの会議が明日開かれる。
その会議で私は正式に凶悪犯連続殺人事件―つまり「キラ事件」の捜査に取り組む事になるだろう。

この事件の話で持ちきりのTVニュースを見ていると貴女がお茶を入れてきてくれた。
暖かいお茶を一口、口に含むといい香りが口の中に広がる。
貴女はニュースに目を向け、やるせない表情をした。

明日、戦いに出向く事を話さなければ。
ICPOの会議が明日開かれる事は知っているだろう。
しかし、私が正式に捜査に加わることはおそらく知らないだろう。

私が話そうと口を開こうとした時。
貴女は、こう言った。

「…行って来ていいよ。私は今回はいけないだろうけどね」
そう、穏やかに言ったのだ。

心を見透かされたような気がして、少し驚いた声を出した。

「なぜ、解かったんです…?」
「なぜって…だってこんな難しくて恐ろしい事件、警察はLを放っておかないわ。Lだって頭の中では捜査をすでに始めていたんでしょ」
「……」

言おうとしていた事をほとんど先に言われてしまった。貴女は「気にしていたんでしょ?」とくすくすと笑う。
そういえば、昔から貴女は私の思っている事をよく言い当てていた。

「…長い戦いになります」
「そうだね」
「…当分会えないと思います」
「うん、そうだね」

貴女は笑いながら、不自然に元気良く言い放った。
「頑張ってね」と。

あまり私を見くびらないで欲しい。
貴女の本音は別のところにある。
私だって、伊達にずっと貴女の傍にいたわけじゃないんだ。
私は椅子から降りて、貴女を抱きしめた。

「本音を…貴女の本当の気持ちが知りたい」
「…言えないよ、教えてあげない。内緒」

貴女の口から出てきた言葉は、私の願いを否定するものばかり。
生憎私は超能力者ではないから、貴女の事、思っていること全てが解かるわけがない。
そんな能力があったとしても、貴女の気持ちは貴女の口から聴きたい。
そんな事を思っている事を示すように、私は貴女を抱きしめる腕に力を込めた。
ふう…と腕の中から小さな溜め息が聴こえた。

「解かってよL。私、あなたを困らせたくないの。私の我侭でLを困らす事なんてしたくないのよ」
「……我侭、ですか?」
「…しばらく、会えないんでしょ?」

そう言って貴女は下を俯いた。
貴女の細い肩、私の背に回された貴女の腕。貴女の手は私のシャツをギュッと握って。かすれていた貴女の声…。
かすかに震えている貴女の身体…。

そうか、そうだったんだ。
私の思い違いでなければ貴女は私を引き止めたいと、そう思っているのだろう。
それは今思えば今回だけではないのだろう。
いつでもそう思っていたはずなんだ。ただ…私が気が付かなかっただけなんだ。

どんな危険な事件でも、解決の為なら私は自分の身さえ省みなかった。
そんな私を今回も心底心配してくれているのだろう。
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