TITLE DREAM

□おわり(千石)
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 「君をひとりにはしないから」。
 そう言おうとした俺を遮って。
 彼女はそう、言った。


「私は清純君の事誰にも相談しなかったけど、南君は、解かってた。解かってくれてたの」

「……」


 愕然とする。
 南が? あの南が?

 彼女の事を密かに好きっぽいのは知ってたけど、まさか告白するなんて。


「悩んだよ。清純君を好きだったから」


 …過去形。


「でも、清純君は私がいなくても平気でしょ?」


 平気なんかじゃない!
 俺は――

 肝心な言葉が、いつも出てこない。
 「好きだよ」なんてのは、誰にだって出てくるのに。


「…悩むの、やめたんだ。
 私には清純君がいなくても南君がいる。
 清純君も、私がいなくても他の誰かがいる」


 彼女が胸の前で手を重ねた。
 上になってる左手を、俺は呆然と見上げた。

 ――クリスマスにプレゼントした指輪を彼女がつけなくなったのは、いつからだっただろう。
 彼女の誕生石が嵌め込まれた指輪は、いつからあの薬指に光らなくなったっけ?

 そんな事も解からない俺は、既に彼女を留めておける力などないのかもしれない。
 「好き」なんて言葉は、もう意味を成さないのかもしれない。

 重ねた手の中から、彼女は何か小さな物――あの指輪を、取り出した。
 細い指で指輪を摘み、俺の目の前に翳すと……


「おわりにしよう」


 無機質な冷たい声と、金属が床に落ちる冷たい音が。



 響いた。




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