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□決戦前夜(L)
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「しばらくって…いつまで?ねぇ、Lいつまで?…っ、帰って…くるよね?絶対…帰ってくるよね…っ!?」
「……そうですね…。努力しますよ」

かすれた声で小さく叫ぶ。
『必ず帰ってくる』だなんて無責任な事は言えなかったが、ひとまず安心させたくて貴女の髪を撫でて、そんな言葉を言った。

幼い頃貴女が泣くときはそんな風に泣いていたのを、ふと思い出す。

「そんな曖昧な言葉なんて…私聴きたくない…っ」

貴女も解かってはいるはずなんだ。こういった時には『必ず』という言葉は特に私達が使うべき言葉ではないということを。
解かってはいるんだろう、頭の中では。けれど、心は厄介でそうはいかない。それが人間という生き物なのだ。

貴女が泣く。私の為に。私は貴女の笑顔が見たいというのに。
『いってらっしゃい』という貴女の笑顔。
ああ、でも泣かしているのは私自身なのだ。

しかし私だって貴女と同じ気持ちなのだ。
離れて淋しいのは貴女だけではないのだ。
事件に立ち向かうときは私も怖いと、そう思っているよ。

「L…困ってるでしょう?だから言いたくなかったのに」
「…そうですね」

涙声でそう言う貴女を、私は近くにあったベッドに優しく押し倒した。
いきなりの事に驚いて目を丸くした貴女の頬には涙が伝った跡。
まだ涙が浮かんでいる瞳。
瞼にキスをして、その涙を舐め取った。


私は言おう。


貴女の悲しみの涙を止める為に。
幼い頃の約束を真実にする為に。
私が帰る場所はこの世でただ一つだけなのだと。
その言葉がどんなに無責任な言葉だとしても。

今まで一度も言わなかった言葉を、貴女に。

上から愛しい貴女を見下ろして。
私は言った。

「必ず帰ってきます。『ずっと一緒にいよう』と幼い頃に約束したでしょう?
私が貴女に嘘を言った事がありますか?」
「…ううん、ない」
「でしょう?…だから、帰ってきます。貴女の元へ必ず」
「そうね…。待ってるわ」

そう言って貴女は微笑み、私は貴女に軽いキスを落とした。
何度もついばむように触れるだけのキスを交わした。
それだけでは足りないと言うように、貴女が私の髪をクンッと掴む。

深いキスに変わると同時に、貴女の手は私の首に回される。
貴女に覆い被さり深いキスを交わすと、ベッドのスプリングがギシッと音を立てた。

戦いに赴く前夜、愛しい人とお互いを求め合った。

あと数時間で貴女と離れなければいけない。

貴女が私を忘れないように。
私が貴女を忘れないように。
いつもよりも、深く貴女に私を刻み込む。
いつもよりも、深く私に貴女を刻み込んで。

あと数時間、出来る限り――…。


目覚めると横には貴女の寝顔。
…ああ、もう朝か。
ついに戦い当日。

『L、そろそろ時間です』
とワタリから通信が入る。

「ああ、解かってる」

一言返事をして、貴女を起こさぬようにベッドから抜け出し服に手を通す。
気持ち良さそうに寝息を立てている貴女に手を伸ばすと、貴女の瞳が開いた。

「起こしましたか?」
「ううん。…行くのね」
「…ええ。行って来ます。
ああ、そうだ」
「?」

まだベッドに沈んでいる貴女に、ほんの少し深いキスをした。
唇を離し、貴女の目を見て一言。

「…愛してます」
「うん…。いってらっしゃい」

穏やかにそう言う貴女の顔は、いつも送り出してくれるあの笑顔。

「行って来ます」

離れがたい気持ちをぐっと堪え、貴女から離れ、私は振り返らずに部屋を出た。
私の身体からはかすかに貴女の甘い匂い。


幼い頃の何気ない約束と、昨夜の甘い約束。
約束なんてひどく曖昧なもので、守れる根拠なんて何も無い。
でもそんな曖昧なものでも私にとっては光であり、勇気なのだ。

次に貴女に会えるのはいつになるだろう。
貴女に触れる事が出来るのはいつになるだろう。
貴女に「おかえり」と言ってもらえるのは…。

先の見えない未来を思い描きながら、私は戦地へと足を運ぶ――。





END





04.06.28

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