TITLE DREAM

□おわり(千石)
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 俺は、この頃思う。

 幼い頃から続いていた俺のラッキーは、君を手に入れた時点で尽きていたんだ。
 あとはアンラッキーの一途を辿るだけ。



おわり



 そんな事をベンチに座りぼんやりと考えながらの、部室での部活サボり。
 こんな場所でサボっていたら、普通ならすぐにバレちゃうんだろうけど、このくらいのラッキーならまだ残ってるからバレません(我ながらすごい自信だ)

 …と思っていたら、部室のドアが唐突に開かれた。

 やべっ!
 ああやっぱりラッキーがなくなってきてるんだ。
 こんな小さな運も逃してしまうなんてね。


「…あれ?」


 ドアの向こうから逆光と同時に降ってきたのは、テニス部のマネージャーもやってる俺の彼女の声。
 俺は外の眩しさに一瞬目を細めながら、彼女の顔を確認する。

 安堵の溜め息。


「なんだ〜…君かあ…南かと思ったよ」


 彼女は優しいから、南に告げ口したりしないのを俺は知ってる。
 今日もヨロシク、みたいな共犯者めいた笑顔を向けていたら、彼女は最初の驚いた顔から、徐々に表情を曇らせていった。


「…? どうかした?」


 何だかヤな予感。

 俺のラッキーは衰えてきたけど、こういう予感を察知する力は健在だと思う。

 ヤな予感。
 ヤな予感。

 胸がモヤモヤする。

 彼女は静かに部室のドアを閉めて、俺に向き直った。
 今度は思いつめた表情。
 でも瞳はすごくまっすぐで、俺は無意識に身体を退いていた。

 俺は、予想してる。
 これから発せられる、彼女の言葉を。


「清純君……別れよう」


 ぐらっ、と。
 視界が揺れた。
 座っているのに、立ちくらみになったような感覚。
 一気に喉が渇き出して、空調の利いた部屋にいるのに汗が出てくる。


「…な…に…言ってるの…?」


 なんとか搾り出せたのは、歪んだ笑みと掠れ声のそんな疑問符。

 違う。
 俺は、そんな事を言いたいんじゃないんだ。


「別れよう」


 繰り返された言葉。
 まるで録音したテープを聴いているかのような、変化のない声音。


「…もう、疲れたの。清純君と付き合うのも、好きでいるのも」

「「疲れた」…?」

「清純君は、私の事を…まだ、好き?」

「まだも何も、ずっと好きだよ」


 正直に言ったのに、彼女はどこか自嘲気味に、ふっ、と力なく笑った。


「…嘘」


 彼女の確信めいた一言。表情。

 …胸をえぐられそうだ。


「私ばっかり好きだったの。清純君は、私がいなくても平気だった」

「…違う」

「じゃあどうして何度も他の女の子と休日に手繋いで歩いたり出来るの?」


 違う。


「疲れたの」


 彼女はまた繰り返す。


「嫉妬するの、疲れちゃった…」


 場違いにも俺は、涙を堪える彼女のその姿を、とても綺麗だと思った。


「告白してくれた時、「ひとりにしない」って言ってくれたよね?」


 言ったよ。
 君をひとりにはしない。


「だから私、清純君が軽い人だって解かってても、付き合おうと思った。
 …でもやっぱりずっとひとりだったよ」


 違う!

 言いたくても、声が喉につっかえて出てこない。

 違うんだ。
 君に、俺だけを見てほしかったから。
 だから。


「もう、おわりにしよう?」

「…君は、またひとりになっちゃうよ…?」


 口をついて出たのは、卑怯な言葉。
 君はひとりになるのを何よりも怖がってたよね。


「もう、君をひとりにはしな…――」

「南君が、「好きだ」って言ってくれたの」
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