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□汚れた自分を癒す、綺麗な…(L)
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別れを告げた時があった。
一度、貴女に。
貴女にはいつも、綺麗でいてほしかったから。
汚れた私の手で、貴女を抱く事は出来ない…。





汚れた自分を癒す、綺麗な…





私は一度、人を殺めた事がある。
この職に就いて、初めての仕事だった。

私の不注意で犯人と接触した時に私に銃口が向けられた時、咄嗟に持っていた銃の引き金を引いた。

私の銃弾は犯人に命中し、犯人は死亡―。

その事件はそれで幕を閉じた。
私の犯人に対しての行為は、正当防衛として表沙汰にされることはなかった。

正当防衛だろうが何だろうが、人の命を奪った事は変えようのない事実。

それをきっかけに、私は人前に姿を見せないようになった。
仕事の依頼が来ても、私は表に姿を見せる事はしなかった。
自分のこの手でまた誰かを殺めてしまうかもしれない。
そう思うと、震えが止まらぬ日もあった。


あの事件から数年が経ち、私は何人もの犯人を死刑台に送ってきた。
迷宮入りと言われた事件も解決してきた。

だが、最近ふと思うことがある。

仕事とはいえ私は犯人を死刑台に送らなければいけない。
私が死刑台に送る…という事は、相手が犯罪者でも私は人を殺めているという事になるのではないだろうか、と。
直接、手を下さずともだ。

――ああ、私の手はこんなにも血で汚れていたのだ。

何故、そんな事に今頃になって気が付いたんだろうか。
何故、もっと早く気が付かなかったのだろう…。

もっと早く解かっていれば、こんな汚れた手で貴女を抱く事はしなかったというのに。
私が貴女に触れ貴女を抱くと、綺麗な貴女まで汚してしまう。

私の血で汚れた手は、綺麗な貴女を抱くのにはふさわしくない。そんな手で貴女を抱くのはあんまりだろう。
私に残された、ただ一つの綺麗な貴女。

だから、貴女に別れを告げたのだ。

『貴女とこれ以上共にいる訳にはいかない』と。

それを聴いた貴女は一瞬目を丸くして、驚いた表情で私を見た。
そしてすぐにいつもの落ち着いた表情に戻って。

『どうしたの、急に。…理由を聴かせて』

そう言って、いつものまっすぐな瞳で私をジッと見つめた。
穏やかに笑ってはいるが、有無を言わせない強い眼差しで。
そんな瞳で見られては、理由を言わないわけにはいかなくて。

貴女には、いつも綺麗な存在でいてほしいのだと。
私の汚れた手で貴女に触ることは出来ないと。
私が貴女に触り、汚れていく貴女を見たくないのだと。

貴女は何も言わず、私を見つめ静かに私の話を聴いていた。
話終わった時、小さい溜め息が聴こえた。

『そんな理由で納得しろっていうの?私の貴方に対する想いは、そんな簡単なものじゃないわ』

先程の穏やかな笑みはなく、少し怒った中に悲しみの眼をして。
だが、それでもまっすぐな強い眼差しは変わらない。
そして、貴女はこう言った。

『私はLと一緒なら、汚れる事も地獄に落ちる事さえも本望だわ』と、何の迷いもなくそうキッパリと言い放った。
地獄に落ちる事も私と一緒ならば、それすらも望むと言う貴女。
それ程の想いなのだと、甘く見ないでと言う貴女。
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