おはなし
□月と水面(サンゾロ,sideゾロ)
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静かな海。
水面がまだ少し欠けている月の光を映してきらきら黄金色に揺らめく。
まるで、あいつみてぇだと思った。
くるくるとよく動くあいつ。
アヒルみてーにお喋りで五月蝿くて。
その輝きは眩しいぐらいで
ちっとの事じゃあ動じねぇはずの
俺の中に
ちいさなさざ波をたてる。
だけどよ、嫌じゃねぇんだ。
俺も不思議なんだが。
あいつにならもっと
動かされてもいい、って思う自分を
みつけちまったみてぇだ。
一味を乗せた船は、冬島の気候域を抜け出し、次の島へと向かって大海原を漂っていた。
まだ肌を切る夜風は少し冷たいが、吐く息はもう、白くはない。
「桜でも、咲きそうだ。」
今は遥か彼方となった故郷・シモツキ村の春、薄紅の桜を思わせる、そんな夜だった。
今日はこの船の料理人の誕生日。
クルーは皆、今日ぐらいは休めと言ったが、コックは
「みんなが俺の料理食って、うまいって言ってくれるのが一番嬉しいからな」
とタバコの火を揉み消しながら、その申し出をやんわりと拒否した。
そして
「最高に美味いもん食わせてやっから、せいぜい楽しみにしとけ」
という言葉通りに、その日のディナーはバラティエ並に豪勢だった。
結局、いつも通りルフィが暴走して食いまくったせいで、コックの誕生日なんだかルフィの誕生日なんだか分からねぇ、いつもの宴になっちまった。
まぁ、コックの奴は
「ったく、作りがいがあるぜ」
とか言いながら笑ってたが。
クルーはみんな、思いおもいの方法で奴を祝ったみてェだ。
ナミは
「いつもありがと、サンジ君v」
と、ほっぺにキス。
コックは
「うほォ〜〜ぃvvv」
とか奇声をあげながら、鼻血出して甲板の端から端までぶっ飛んでいった。
「5万ベリーね♪」
っつー声が聞こえた気がしたのは、気のせいだと思いたい。
その後チョッパーが、
「こらナミ!サンジはまだリハビリ中なんだからな!刺激しちゃダメだ!」
つって怒ってた。
…あいつ一体なんの病気だ??
そのチョッパーは、薬効のある料理のレシピを渡したみてェだ。
あいつも喜んでたみてーだった。
やっぱり、腐っても料理人だからな。
ロビンは、能力を使ってキッチンをピカピカに磨きあげた。
あいつは
「レディを働かせちまった!」
って落ち込んでたみてェだが。
ウソップは、
「サンジ君、君にはウソップ工房とっておきの、ミラクルフレッシュ卵星を授ける!」
とか言って
「食べ物を粗末にするな!!」
と怒られてやがった。
フランキーは、買い出し用のでっけぇ車輪がついた荷台。
ありゃ便利そうだぜ。
…ちょっと、乗っかってみてぇな。
ルフィは釣りで捕まえた凶暴そうなサメを
「サンジ!こいつ食いてェ!」
つってキッチンに持ってった。
ま、あいつにしちゃあ上出来だ。
ブルックはリクエストに答えてバイオリンで一曲引いてやってた。
あいつ、あんな曲も弾けるんだな。
俺は…
なんもしてねェ。
強いて言えば、不寝番を替わってやったぐれぇだな。
今日の不寝番はコックだったんだが、
ナミやらウソップやらが
「ゾロ、あんたサンジ君になんもしてあげないつもり?」
「おいおい、そりゃねェぜ!年に一度の誕生日なのによ!」
とごちゃごちゃうるせェんで
替わってやることにした。
それで、ここでこうして夜酒を楽しんでる
っつー訳だ。