おはなし
□甘い宴-夜-(サンゾロ,R18)
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雛祭りの宴が終わり、男部屋と女部屋からすぅすぅ、ぐぅぐぅ、すぴゅるぴゅる…と安らかな寝息が漏れ出した頃。
格納庫にはまだ眠りに堕ちていない二人の人物の姿があった。
一人はサンジ、もうひとりはゾロ。
――秘められた宴が、今夜も始まる…
「なぁゾロ、さっきのキス…俺を誘ってたんだろ?」
「…別に……てめェの心遣いが粋だと思ったから、礼をしただけだ」
「ふーん…ま、なんでもいいか。嬉しかったし…結果的にゾロもちゃんと約束通り、格納庫に来てくれたし………な、嫌じゃないんだろ?」
サンジはジャケットを脱ぎ、格納庫のひんやりとした埃っぽい床にそれを敷きながら、ゾロを見上げてへらり、と笑う。
「…てめェ…昨日も誕生日とか言って散々好き勝手やった所じゃねぇか」
ゾロはしゃがみこんでいるサンジの横にどっかりと腰を下ろし、刀を壁に立て掛けながら答えた。
サンジはタバコを取り出してライターをカチッ、カチッと鳴らし、火をつける。
「あのな、ゾロ。俺たち出会って何年だ?」
「19で出会って、3年だろ?」
「そう、まだたったの3年。しかもそのうち2年間は、完全に離れたって訳だ。旅してた1年の間だって、ずっと一緒だった訳じゃねぇしよ」
「まあ、そうなるな」
「お前の生きてきた21年の中にゃあ、俺の知らねぇお前が、18年分もあるんだ。……知りたいと思うのは…当然だと思わねぇか?」
ゾロはサンジの声に切なそうなものが混じるのに気づき、顔をあげて、サンジの微かに震えている左目に自らの右目の焦点を定めた。
「…全てを知る必要なんて、無いんじゃねェの?
俺だっておめぇの過去18年のことなんざ何も知っちゃいねーし、聞く気もねぇ。おめぇが話したいなら別だがな。
今、ここで俺たちが出会って、一緒に居る。…それで充分なんじゃねぇか?」
ゾロのその真摯な言葉に、サンジの瞳の揺れが少しずつ落ち着いていく。
「…よかった。俺もそう思おうとしてたんだ。でもやっぱり、故郷を想ってるお前の顔みてたら、ああゾロの野望の原点はそこにあるんだなぁ…って思って。俺なんてゾロにとっては通過点なのかな、とか、思っちまったりしてよ。ばかだよな…俺」
「ああ…大ばかだな。確かにシモツキ村で過ごしたころのことは大切な記憶だ。だが…俺の野望に必要なのはてめェも同じだ。てめェはバカで、いつもへらへらして。そのくせにそうやって影で勝手に悩みやがるんだ。」
ゾロはそう言うと唇の端を微かにあげてサンジをちろ、と見やり、こう告げた。
「てめェはバカだから、全てを知らねぇと不安になるんだろ?
教えてやろうじゃねェか。
だがよ……生憎、俺は言葉で話すのは苦手だ。知りたけりゃ…身体に聴くんだな」
サンジは、フーッと息を吐くと加えていたタバコを手にとり、ジュッと揉み消す。
「あぁ…聴いてやろうじゃねぇの。
18年分ヨくしてやるから、覚悟しろよ?」
「……喋ってねーで、早くシロよ。
あんまり遅ぇと、俺からシちまうぜ?」
ゾロの吐息で、サンジのの前髪が揺れる。
「…あんまり挑発するんじゃねーよ…我慢できなくなっちまう」
サンジは肩に手を掛けてどさり、とゾロをジャケットの上へ押し倒した。