おはなし

□あるいちにち(サンゾロ)
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サンジはゼフと手をつないで歩いている。

今日は月曜日。
お休みが明けて、2日ぶりのようちえんに行くところだ。
サンジはまだ4さいなので、ゼフに毎日送ってもらう。5つになったら、バスに乗って自分でいかなくちゃいけないらしい。
バスは楽しそうだけど、おれは歩いていくほうがいいなとサンジは思う。
だってゾロに一番に会えるから。



家の前の道を暫く歩くと、一つ目の曲がりかどの向こうに、緑の頭がちら、と見えた。
「あ、ぞろ!はよーっ!」
サンジは繋がれていた手をぱっと放してパタパタとかけてゆく。

「こら、チビナス!急に走るんじゃねェ!」 ゼフが怒鳴ったのを聞いて、走りながら振り返り、いーっと口をひっぱる。
「もうちびじゃねーもん!」
そう言った瞬間、足を石畳の端っこにひっかけてびたんと転んだ。
「ほら、転けただろうが」
後ろからゼフが追いついてきて、ぶっきらぼうに手をさしだす。
「う…くそ〜じじいのせいだ!」
「父さんと呼べ、このくそがき」
涙目になりながら、ゼフの手をつかむ。ぶつかったおでこが赤く腫れている。


「よう、朝からなにしてんだ?」
「あ、ぞろ!」
サンジがおでこをさすりながら立ち上がると、ゾロが、コウシロウに手をひかれてやってきた。大人達が話始めたので、サンジもゾロに歩きながら話しかける。

「おれ転けちまってよ〜!朝からついてねーよな、まったく。ほら、たんこぶもできちまったし」
サンジはなぜか誇らしげに顔をつきだす。

「うぉ、でけーたんこぶ。」
ゾロは前髪の上から額をそっと撫でて、それからぱちぱちっとまばたきした。切れ長の瞼の下で瞳がまぁるくなっている。

「う…やっぱりちょっぴり痛てーや。」
サンジの目がうるっとしたので、ゾロは慌てる。サンジは一度泣きだすと、いつもなかなか泣きやまないのだ。
慰めようと思ったが言葉が思いつかないので、仕方なくもう一度腫れた額に手をのせる。

「おい、ちょっと泣くのたんまだ!痛くなくなる呪文、してやるからな」
目をつむっておとなしくしているので、両手をかざして、ふぅと息を吐くと、父に教わった通りにしっかりせいしんとういつをする。
「痛いの、とん、とん、とんでいけ!」
パワーを込めて唱えると、よしもう大丈夫だ呪文したからな、とサンジに目をあけるように促す。
「う〜ん…まだ痛いの残ってら。」
サンジは薄目をあけてゾロを見て、口を尖らせる。
ゾロはそれをみて、あひるみてぇ。と思う。でも前にそう言ったらばかにすんなと怒られたので、いわないでおく。

「そうだ、おれさ、もいっこ呪文知ってるからさ、ぞろ、それやってくんねー?」
「おう、まかしとけ!」
ゾロは頼りにされたのがうれしくって、とん!と胸をたたいて笑ってみせた。

サンジはそれをみてにっこりする。

そして、立ち止まって腕をゾロの首根っこに回すと、ちょっと爪先立ちをして、そのまま自分のほうへと引き寄せる。
「うあ?」
なにがなんだか分からないままに、くちびるが、ぷっくり膨れたたんこぶに触れた。
むにっと柔らかい感触。
サンジの白いおでこは、すべすべしていて熱かった。

ぷはっと息をして顔を離す。
「へへ、治った!ありがとなゾロ!」
「ほんとか?」
呪文はこうかばつぐんのようで、サンジがいつものまゆげの下がったにやけ顔に戻っていので、ゾロは安心してほっと息を吐く。

そうこうしているうちに、ずいぶん大人たちが先に行ってしまっていた。
だいぶ先のほうから早く来いと呼んでいる声が聞こえる。

「よし、行くか!」
サンジはそういってゾロの手をわしっと掴んで、また走りだす。

「おう!もうこけるなよ!」
「大丈夫、つぎこけたらおまえもみちづれだ!」
「みちずれ?」
なにやら知らない言葉を言うので、聞き返す。
「みちづれしらねーの?ずっといっしょってこと。おれとおめーはずうーっと、みちづれ!!」


ゾロはなんだか恥ずかしくて怒りたくなったが、サンジをがあんまり嬉しそうに言うので、むっと黙ってそっぽを向くので我慢した。



「ああ、やっと来ましたね、ゾロくんサンジくん」
二人が息を切らせているのを見て、コウシロウが優しい声でいう。
このひと、おこったりないたりしたことあんのかなーとサンジは不思議におもう。いつみてもコウシロウはにっこりして笑っている。

「遅ぇぞガキども」

ゼフは怖い声で言ったけれど、ゾロはサンジにほんとは優しいんだぜ、と聞かされているから、怖がったりしない。
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