まぜこぜ
□短篇 零
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「今日はね」
「はい」
「キミの顔を見に来たんだ」
その言葉に、浦原は表情を固まらせた。
「元気そうで良かったよ。用件はそれだけなんだ」
そう言って立ち上がり、浦原に向き直った。
「大丈夫とは思うけど、もし山じいに何か言われても適当にごまかしておくよ。突然押しかけて悪かったね」
戸惑いを隠せない表情でこちらを見つめる浦原に、京楽は苦笑した。
「欠けた穴を埋めるのはラクなものだって言ってたけど、ボクにはそう簡単なものじゃなかったよ」
「どうして…」
透けるような白い肌。伸ばした指が浦原の頬に触れる。
「今なら、虚の気持ちも判る気がするよ。胸に空いた穴を塞ぎたくなる」
京楽は淡い金の髪を撫でると、別れの言葉も言わずに背を向けた。浦原には離れていく背中を見つめることしか出来なかった。京楽がどうして永久追放された自分を探しに現世まで来たのか判らなかった。
瞼を閉じて開いた時には既に薄桃の影は消えており、問うには時間が遅すぎた。
桜のつぼみが漸く綻び始めた早朝の事。
浦原の胸の辺りがちりちりと痛んだ。