お題
□笑う
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笑う
「へへ」
異変を感じ始めたのはほんの3分前。
眉間の皺が消え、いつものアタシみたいに彼はヘラッと笑う。
こんな笑い方も出来るのかと思う一方、恐ろしいと思ってしまう自分。
「いつもあんな顔してるのに、いきなりこんな顔されちゃあね‥‥」
可愛いけれど、酒から誘発されたそれだから怖いのかもしれない。
「へへッ」
笑い上戸は良いけれど、アタシみたいに無意味な笑み作るのはちょっとやめてほしいなぁ。
「黒崎サン、もうおしまい」
「えぇー」
抗議の声さえ楽しそうに聞こえる。
「そんな甘えた声出してもダメっスよ。悪酔いしたら困りますからおしまいっス」
「良いだろ?もっと呑もうぜ!」
10本目のチューハイを手に取る。
春限定の苺味。
そんな子供みたいに笑っちゃって、しょうがないっスねぇ。
「その1本だけっスからね」
「うん」
それでもその笑顔だけで許してしまおうかと思う自分は、相当この子に甘いと思う。