お題
□Embrace
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Embrance
遠くで、キミが陽炎のように揺らめいた。
そちらに足を向ければ、キミは黒い喪服に似た装束に身を包み、立ち尽くしている。
落ちた赤。
キミはそれを見つめる。
「アタシは」
そう言って、キミの隣へ。
「アタシはキミにとって赤の他人です。ただキミに剣を教えただけで血の繋がりもないし、名付け親とかの関係でもない」
刃を握る右手は固く白い。
「まして、キミが助けた方は顔も知らない人だったはずです」
サイレンが唸っている。
「キミは見ず知らずの人を確かに助けた。怪我を負わせたことをキミは悔やむけど、命とを天秤にかければ、怪我なんて安いもんです。‥‥極論ですけどね」
狡い言い方をしたと思う。
「世の中には、色んな死があって‥‥戦死や餓死や、虐待で死ぬこともあるし、自然災害に巻き込まれることもあります。キミは、死からひとつの命を救ったんです。その命が失われることで哀しむ人がいます。キミはたくさんの人を救っている」
キミも、あの時泣いたでしょ。
「キミにはまだ、護るものがたくさんある。救える命がたくさんある」
アタシはね、
「キミとは赤の他人だけど、押し潰されそうなキミがまた立ち上がれるように、キミを抱きしめてあげることくらい出来るんですよ」
こんな小さなことだけど、キミの助けになれるよう、アタシは腕を伸ばす。