お題

□泣く
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泣く









「ヤダ!」




泣き出した。




腹に刀が刺さっても滲ませもしなかった涙を、たかが甘酒を呑んだだけでこんなにも容易く出すものだろうか。



どうしたのかと肩に手を置くといい音を立てて弾かれた。




「ウッ‥‥ヒック。さ‥‥触るなぁ‥‥」



可愛い声だった。
その可愛い声で拒絶の言葉。
理性なんて不安定で脆い。



しかし、嫌われるのはごめんだ。


「スイマセン」



アタシは立ち上がる。
傍にいれば確実にアタシの腕の中に閉じ込めてしまう。






クンッ






羽織が引っ掛かる。






振り返ると泣きじゃくりながら必死に腕を伸ばす彼。




「なんで‥‥?離れちゃやだ」






困ることを言ってくれる。
触らずに傍にいるだなんて。






こんな可愛い黒崎サンを何にもせずに放って?



生殺しもいいところだ。
拷問だ。




「喜助ぇ‥‥」




やっぱり無理かも。





半分無意識で手を伸ばす。





「やだ!」





強い拒絶。





「触ったら、ヒック、も‥‥きすしな‥‥ヒグッ‥‥いから」




伸ばしかけた腕が瞬時に止まった。



その手で帽子を被り直し、涙に濡れた彼の隣に座る。羽織を握る手を包み込むと肩が震えたが、それも一瞬。











「離れたりしませんよ」











だから、アタシの理性が壊れる前にどうか泣き止んで。




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