まぜこぜ
□短篇 零
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君を求めて春を待つ
下草の揺れる音が聞こえる。鳥の羽搏きが空に消えていく。大気が揺れる。
浦原は布団に沈めた肢体を持ち上げた。
「そのままで構わないよ」
閉じた障子の向こうから声が掛かる。縁側に座った影が、笑みを作るのが判った。
火鉢に火を入れ、布団を片付ける。障子を開けると、薄桃が目に飛び込んできた。
「お待たせしちゃってスイマセン。中へどうぞ」
「ありがと。でも長居はしないつもりだからここでいいよ」
その返答に、浦原は男の隣に正座した。
「お久しぶりです、京楽隊長」
浦原の言葉に、男は振り向き小さく頷いて見せた。
「こっちももうすぐ春だね」
「ええ」
「向こうはもう桜が咲き出してるよ。今年の冬は寒くて寒くて、雪もよく降ったんだけどね」
京楽が口を開く度、凍った吐息が舞い上がる。他愛のない言葉の羅列に浦原は時折思い出したように頷きを返した。
ひとしきり話しをすると、京楽はそれまでとは打って変わって口を噤み、庭先の桜の木をじっと見つめた。沈黙を破ったのは浦原だった。
「アチラは変わりないようっスね。技局もアタシなしで動いてるようで安心しました」
「……そう、思うのかい?」
「欠けた穴を埋めるのなんてラクなもんです」
笑い声が、浦原の口から零れて白く凍った。
「それで、今日は何か御用ですか?こんな所に来てたら、お爺様に怒られますよ」
軽い調子で浦原が言うのを見て、京楽は笑みを浮かべた。幾重にも結界を張り巡らせ、結界の中に入れば、外に残った霊子の残滓さえも掻き消される。霊圧の捕捉もさせない用意周到さは変わらないのに、茶化して逃げ道を作る。
自分が知るよりも少しだけ狡くなった男に時の流れを感じつつ、京楽はひとつ息を吐いた。