倉庫

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全部あのアル中親父が悪い。
うん。そういうことにしとこう。

*


始まりは一粒のチョコレート。

「紫苑、これ、なーんだ」
紅い箱から一粒のチョコレートを取り出し、紫苑に見せる。
「え、これチョコレートじゃないか。なんでこんなもの」
「おっさんの所から拝借してきた。ここじゃかなりの高級品だぜ」
「いいのかな…」
「別にかまやしないだろ。ただでさえ血糖値高いんだから、人助けだと思えばいい」
そういっておれはチョコを紫苑の口に押し込んだ。
「むぐっ」
「じゃあおれも」
甘い。それと同時に上品な味の液体が口の中に広がる。
…ウィスキーボンボンか。
「あのおっさん結局酒なんだな」
口を指で拭いながら紫苑に言う。
しかし、紫苑の様子が変だ。
「紫苑?」
「…ねずみ」
紫苑は目が虚ろだ。もしかして酔っ払った?
おれは試しに質問してみる。
「3+7は?」
「…うん」
「…3×7は?」
「うん」
紫苑は頷くだけだ。やばい。てかどんだけ酒に弱いんだ。

仕方ない。ため息をついて、紫苑の手を引っ張る。
「紫苑、もう寝ろ。ベッドまで連れてってやるから」
「寒い」
紫苑はそう呟くとぐいっとおれの手を引き寄せ、抱きしめた。
「こうしたらぼくもきみもあったかいだろ」
紫苑はえへへ、と無邪気に笑う。

え、なにこの状況。紫苑さんこういうキャラでしたっけ?
何とかして離れようとするが、紫苑はさらに強く抱きついてくる。
「痛い、痛い。離れろって」
「嫌だ。朝までこうしてる」
「朝までってあんた…おれ明日仕事だから早いぜ?しお」
紫苑は寝てしまっていた。
「ったく…」
紫苑はすーすーと寝息をたてている。

あまりにも無防備。沸々と湧いてくる欲望が抑えきれず紫苑の首に噛み付く。
「んっ」
紫苑が小さく声をだす。しかしよほど熟睡しているのか目を覚ましはしない。
それをいいことに白い首に吸い付いてみる。
「んっ、あっ」
「くすっ。なかなか、いい声だ」
これ以上先へ進むといくらなんでも起きるか…
「続きはまた今度してやる」
紫苑の頭を軽く撫でるとおれは眠りにおちた。

*


「……朝か…って、、え!?」
状況が理解出来ない。
「なんで床?その前になんで…」
ネズミと抱き合ってんだ…
ネズミが目を覚ます。
「あ、起きてたのか。とりあえず重いからどいてくんない?」
「うわっ、ごめん」
慌てて飛び起きる。ぼくがどくとネズミは平然として起き上がった。

「ネズミ、昨日ぼくは一体きみに何を…」
知らないほうがいいのかもしれないが、怖々と聞いてみる。
「やっぱり覚えてないんだ」
ネズミはにこりと笑う。
「昨日あげたチョコ、酒いりだったみたいで、酔っちまったらしい。あんたおれから離れようとしなかったんだぜ」
「……そんな」
全然覚えてない。チョコを食べたことすら記憶にない。
ぼくはへなへなと床に座りこんだ。
ネズミを見上げると、もう身支度を整え、超繊維布を巻き付けていた。
…出掛ける時の格好だ。
「仕事?」
「ああ、じゃぁもう出掛けるから」
ネズミはドアノブに手をかける。
「あ、そうだ紫苑」
「え?」
「なかなか激しい夜だったぜ」
ネズミはニヤリと笑うとでていった。

「は、激しい夜って…ぼくは何をした…ん…だ」
…顔、顔を洗ってこよう。ふらふらと洗面所へ向かう。


冷たい水を顔にかけ、顔をあげる。
…鏡が目に入った。
「な…これは…」
白い首にくっきりとした赤い跡。蛇のあざよりほのかに薄い。これは…多分…
「キスマーク…」

さぁっと血の気が失せる。
ぼ、ぼくはまさかネズミと…


…母さん、沙布、ごめんなさい。


―それからぼくが暫くネズミとまともに会話できなかったのは言うまでもない。

*end*」

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