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□ぷれぜんとはきみ!
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「…あのさ、本当にやるの」

気づけばベッドの隅まで追いやられていた。
逃げ場がない。
万事休すという言葉が頭を過る。

「うん。
ぼくも二十歳になったしそろそろだと思うんだ」

何がそろそろだ。
面と向かって言ってやりたいが、口に出す勇気がないので心の中で毒づく。

「こ、心の準備が」
「きみ、いつからそんなに乙女になったんだよ」

紫苑とは高二の時からいわゆる恋人同士だが、キス止まりだった。
おれも男なのでそういう欲望がないと言ったら嘘になるが、紫苑は天然の塊みたいなやつで鈍そうだし、ゆっくりでいいかなと思っていたのだ。
大学生になって紫苑が一人暮らしをし始めてから、大学が近いこともあってよく紫苑の家に入り浸ってはいたが、高校生の延長という感じで、特に変化なし。
今日九月七日、紫苑の誕生日もいつものようにおれは紫苑の家に行った。一つだけいつもと違うのは二十歳記念に上等のワインを持って行ったこと。それがまずかった。
宅飲み中に気が大きくなったのか、紫苑はあろうことかおれに抱かせてくれとせがんできたのだ。逃げに逃げまくってこの状況に至る。
プレゼントにきみが欲しい、なんて少女漫画みたいな言葉を本気で言うんだから笑えない。

「あんた、絶対酔ってるだろ」
「酔ってないよ。お酒は初めて飲んだけど、ぼくは強いみたいだ」
「じゃあ頭も正常に動いているな。冷静に考えろ。なんでおれがあんたに抱かれなくちゃいけない」
「ネズミはぼくとセックスしたくないのか?」
「それは、したい…けど」

おれだって健全な男なので、そういう欲望がないわけじゃない。
だけど、今までの付き合い方から考えてもおれが抱くほうだろ。

「じゃあ良いよな」
「いや、まだ了承してな」

言い終わる前に唇を塞がれた。
高校の時におれが紫苑のファーストキスを奪った時は、真っ赤な顔してふにゃふにゃになっていたというのに、今日は自ら歯列をなぞって舌をねじこんできた。

「ん…ぅ」

口腔をなぶられ思わず声が漏れる。
くそ、いつの間にこんなに上手くなったんだ。
紫苑はおれの反応に気を良くしたのか、挑発するように腰を押し付けてきた。

「っはぁ」

ようやく唇を離した紫苑は、火照った顔で瞳を潤ませた。
やばい、この顔けっこうクる。
やっぱりおれが、そう思って手を伸ばしたが、手首を掴まれ阻まれる。

「触っていい?」

掴まれた手の指先をぺろりと舐められて、不覚にもときめいた。
そしてうっかり頷いてしまった。
…自分をぶん殴りたい。
後悔してもすでに遅く、シャツがたくしあげられ細い指が突起を掠めた。

「うあッ」
「初めてでよく分からないんだけど…これ気持ち良い?」

首を傾げて右手で突起をくにくにと捏ねられる。
妙な感覚に身体が跳ねた。

「…言わせるのが趣味なわけ?」

精一杯悪態をついてみせたが、紫苑は「だって分からないし…」と言って、触っていない方の突起を舐めた。

「っ、それやめろ」
「あ、これ気持ち良いんだ」
「ちが…」
「だって反応してるよ?」

膝でぐりぐりとそこを押され、肩がびくりと震えた。また変な声が出そうになって、慌てて唇を噛み締める。
こいつ、かなりタチ悪い。

「ベルト、緩めるね」

だからなんであんたはいちいち口に出すんだ。
紫苑はぎこちない手つきで前を寛げると、やや反応しているおれの性器を取り出してまじまじと見つめた。

「…いつまで見てんだよ」

生憎視姦されるのは趣味じゃない。

「あ、ごめん」
「フリーズしたか?主導権渡すなら今だぜ」
「大丈夫。男同士のやり方勉強したし」

紫苑はサイドテーブルに置かれた小さな紙袋に手を伸ばし、ピンク色のボトルを取り出した。いかにもなその色に、これからされる行為を想像してしまう。
準備の良いことだ。
性に関しては淡白そうな紫苑が最初からそのつもりだったことに驚いた。
少し紫苑を見くびっていたかもしれない。
震える手で下着まで全て脱がされたが、もう抵抗しようと思わなかった。
怖くないと言ったら嘘になるけど。

「ちょっと冷たいかも」

喉をこくりと上下させて、紫苑はぽたぽたとローションを秘孔に垂らした。

「うっ…」
「力、抜いてね」

そう言われて指が挿入されたが、違和感が尋常じゃない。
腰を引いてしまいそうになって、紫苑に押さえられた。

「このへん…かな?」

探るようにもぞもぞと指がナカで蠢く。
必死に耐えていると、突然電流が走ったように背中がびりびりと痺れた。
噂の前立腺とやらに触れられたらしい。
冷静に考えることが出来たのは最初だけで、おれの反応を見ながらコツを掴んだ紫苑が徐々に指を激しく動かすからたまったものじゃない。

「あ、もうやだ、っ」

いつの間にかナカを解す指は増えていて、ローションの卑猥な水音がいっそうおれを昂らせる。

性器はすっかり反応しきっていて、先走りを流していた。
早く出したくてもどかしい。

「いつものきみじゃないみたいだ…」
「ッ、そうさせたのはあんただろ」

睨んでみせたが、天然坊やにはなんの効果もなかったらしい。

「うん。すごく気分がいい」

誇らしげに呟いて、おれの先走りを掬った。
直接の刺激に身体は歓喜するが、一瞬のことであって物足りない。
主導権は握られているとは言え、完全に受け身なのは癪に障るので、紫苑の首に手をまわして引き寄せた。
濃厚な口づけをして、耳元で一言、挿れてと囁けば、たちまち紫苑の頬は紅を差したように真っ赤になった。
うん、これでこそ紫苑だ。
ほくそ笑んだのもつかの間、紫苑が自分の前を寛げて性器を取り出したのが目に入る。

「いっ、挿れるね」

十分に解されたとはいえ、普段排泄する場所に挿れられるのかと思うと怖い。
思わず目を固く瞑った。

「う…」
「ふぁ、きつ…」

圧迫感が半端ない。指とは全然違う。
紫苑も苦しそうだったが、それでもゆっくりと腰を落としてきた。

「んっ…」

無意識に足の指に力が入る。
手元が心許なくて、シーツを握り締めた。

「全部はいっ…た」

荒い息で呼吸をしながら紫苑がようやく告げる。
こくこくと頷くと紫苑はおれの腰を掴んでゆっくり抽挿を始めた。

「ぁ、ねず、み…」
「ばか、もう少しゆっくりしろ」
「ごめ…止まんな…」

欲望のままに突かれ、感じるところを刺激される。
激しく揺さぶられたせいでぐらぐらする頭の中では性欲が理性を上回った。
本能のままに自身に手を伸ばすが、気づいた紫苑に制された。

「手、離せよ」
「ごめん。ぼくもあと少しなんだ。きみと一緒がいい」

いつもなら簡単に振りほどけるのに、今は力が入らない。
それにそんなこと言われたら我慢せざるを得ないだろ。

「あ、紫苑、しおん、ッ」
「ネズミ、すきだよ」

反り勃つ性器を扱かれておれは白濁を飛ばした。
それからすぐに生温かいものを腹に感じ、ぼやける意識の中で紫苑もイったのだと思った。


*

コーヒーの香ばしい匂いに目を開ける。
慣れない枕に、遂に一線を越えたことを思い出した。

「痛ッ!」

身体を起こすと激痛が走った。
悲鳴に気づいた紫苑が、コーヒーを片手に様子を見に来た。

「大丈夫か?」
「大丈夫なわけあるか」

差し出されたコーヒーを啜りながら返事をする。

「悪い。ぼく、自分のことしか考えられなくて…」
「まあ、あんたも誕生日だったし許してやるよ。だけど、次はおれが上だからな」
「え?!」

想定外だったのか、紫苑は大きく瞬きする。

「当たり前だろ。おれだって男だぜ。
次、楽しみにしてるから」

何か言いたげな顔をしている紫苑を無視して、おれはコーヒーカップをサイドテーブルに置くと再びベッドにもぐり込んだ。
今日は休日だし、身体は痛いし二度寝に限る。
目覚めてからの恋人と過ごす時間を想い描きながら、おれは再び目を閉じた。

*end*

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