いろいろな色

□エコロジスト
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視界が真っ黒になったと思えば、ぐいと重心が後ろへと動く。
なんだと驚けば、力強く肩を掴まれた。
痛いほどに力は強い。
「ノール」
「危機感が無さすぎる」
そんなことはないはずだ。
何時ものように、わたしは警戒を怠ってはいない。何時ものように、当たり前に。殺意がある。
「呉音ちゃん」
ノールがわたしの名を呼ぶ。
形しかない影が、わたしを呼んだ。
形しかないそこにいるだけのソレ。
わたしの影に住まうモノ。
「女の子なんだから」
女の子。そう。今のわたしは女の子だ。
16歳という中途半端な姿の女の子。
けれど、中身は違う。女の子は姿だけ。
「ノールもなれば?」
「え、なにに?」
「女の子」
手を退かして、ノールを見上げる。
なれないことはないはずだ。だって、形なんてモノはないのだから、ノールは形を変えられる。つくれる。
「ならないよ」
いつも子供みたいに顔を膨らませるはずのノールは、はぁと短いため息を零した。
初めて見る。ノールのこんな顔。
……初めて?本当に?
なにか、引っかかる。なんだろうか。
「僕は呉音ちゃんが女の子だから、こんな姿をしてるんだよ」
「……?」
わからない。わたしが女の子で、ノールが男であることに意味があるのだろうか。無いように思えるけれど、ノールには意味があるらしい。
「にぶちんだね」
く、と頬を軽く抓られる。意味がわからない。けれど、自分が少し鈍いのは知っている。むっとしてぐさりとノールにナイフをつきたてた。実際は、グサリなんて手応え無いのだけれど。とりあえず刺す。しんしんと、
それは突き刺さる。
「痛いよ、呉音ちゃん」
そう言うノールは、いつもと変わらなかった。痛くない癖に、痛いと言うのは変わらないようだ。ノールは、そっと手を離した。
少し、安心した。
わたしはノールに気づかれないよう、息を落とす。
「帰ろう。呉音ちゃん」
ノールの言葉にわたしは首を傾げる。
帰る。どこに?
「僕は呉音ちゃんの影に住まうモノ。帰るのは呉音ちゃんの影にだよ。呉音ちゃんは、自分の家へ」
「うん」
そうだ。わたしには帰る場所がある。愛しい家族がいるあの家へ。わたしは帰らなくてはならない。
「ノールも」
「ん」
ぽつり、口から零れる。
「帰ろう」
「……いいの?」
「帰ろう。一緒に」
「……う」
「う?」
「うれしい」
「今日だけ」
「それでも嬉しい」

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