いろいろな色
□曇天に消えた
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【それは死の匂い】
その国はいつも曇天だった。
青い空なんて少しも見えない。
分厚くて、灰色の雲。
雲の隙間から光が差し込むこともない。
真っ白な雪が降ってくることもない。
灰色の世界。
そしてそこは、死の匂いが漂うた。
その国はおかしかった。
狂っていた。
いや、狂っているのはむしろわたしなんじゃないかと思うほどに、狂っていた。
外を歩けば血だまり。
路地に入れば肉片が落ちている。
ここはそんな国。
「僕はキミに生きていてほしいな」
「はぁ?」
馬鹿じゃないのかこいつ。
初めてその言葉を聞いた時、わたしは耳を疑った。彼の思考を、その言葉を疑った。
この国でそんな言葉を聞いたことも、ましてや言われたこともない。
普通ならこうだ「僕のために死んでくれ」。
なのに、こいつはなんて言った?
生きてほしいってなに?
わたし、生きてていいの?
馬鹿じゃないのか。
ほんとにそう思った。
こいつはおかしいって思ってしまった。
何よりも、誰よりも望んだ言葉を、わたしはぽいと投げ捨てた。