出荷済み。第1便

□╋僕達の楽園╋
1ページ/11ページ

「おじさん、お腹空いた。」
「…俺もだ。」
サンサンと照りつける太陽。
車で旅を続けてもう一週間になる。
「なぁなぁ‥こんなにお金があるんだから、あそこのお店で買ってくればいいじゃんか。」
「別にそれでもいいが…そしたら坊主、おじさんとはお別れだぞ?」
おじさんはそう言って血の付いた格好いい帽子を被り直した。
「…それは嫌だな。」
「ならもう少し我慢してくれ。…こんな食い掛けでよけりゃやるよ。」
おじさんは口端を上げ、俺にハムのサンドイッチをくれた。
「え〜俺、フライドチキンが食べたい‥。」
「我儘言うな。あるだけありがてぇんだ。神さまにちゃんとお祈りしてから食うんだぞ。」
おじさんのでっかい手が俺の頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「おじさんなんか神様にお祈りなんかしたことねぇくせに。」
僕は文句を言いながらも、そのサンドイッチを口いっぱいに頬張る。
「…うまいか?」
「俺、サンドイッチはライ麦パンの方が好きだ。」
「お前は本っ当我儘だな。」
おじさんは小さく笑うと、僕の口元に付いたマーガリンを拭ってくれた。
「我儘って言うなよ。俺はグルメなだけだ。」
「ははっ‥グルメねぇ。」
おじさんはまた僕の頭を撫でると、少しだけ寂しそうに笑った。
「子供はもっと我儘でいいんだ。ガキの頃に我慢するとおじさんみたいになっちまう。」
おじさんはそう言ってヨレヨレな煙草に火を点けた。
「おじさんみたいってどんなの?」
「…そうだなぁ‥犯罪者かな。」
「はんざいしゃ?おじさんみたいな人のこと、はんざいしゃって言うの?」
聞き直すと、おじさんはそうだよ。とだけ呟いて、それがどんな意味なのかは教えてくれなかった。

「何か他に欲しいもんはあるか?」
「俺、コックになりたいんだ。」
「…へぇ」
「んで俺な、自分のコックコートと自分の包丁が欲しいんだ。」
「まだガキんちょのくせにちゃんと夢あんだな。」
おじさんはそう言って笑いながら俺の話を聞いてくれた。
こんなふうに話を聞いてくれた人はおじさんが初めてだったから、俺は嬉しくなって一生懸命話した。

夜になり、おじさんはどこかへ出掛けていった。
すぐに戻ると言い残して。
その言葉を信じて待っていたのに、おじさんが帰ってきたのは次の日のお昼頃だった。

「おじさん遅いよ!」
「あぁ‥悪かったな。ほら、フライドチキン。」
おじさんが差し出す。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ