出荷済み。第1便

□ずっと、何度でも。
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「…なに、これ。」
「見りゃわかんだろ?」
手渡されたものを突っ返すこともできず、俺はただベッドの上で固まった。

「じゃあ、仕事行ってくるから‥何かあったらケータイに連絡しろ。番号は短縮で1番だ。」
「金なんか‥金なんかいらねぇよ!」
「…遠慮するな。」
感情のない声。
「遠慮じゃ…」
スーツを着たその後ろ姿に叫んでみても、返事もないまま扉は閉められた。

「…8万って‥」
どれだけの金持ちか知らない。
ただ存在する事実は、ホームレスになりかけの俺を、拾って養ってくれているということだけ。
食費を含めた俺にかかる全ての生活費に加え、今日みたいに小遣いだと万単位の金をくれる。

最初出会ったとき、風呂に入れてもらって、あったかいビーフシチューをご馳走になった。
泣けるくらい旨くて、好きなだけいればいいって言葉が嬉しくて。
俺はその言葉に縋ってもう3週間もズルズルとこうして居ついている。
居心地がいい。
男は俺のことを詮索することも、何かを強要することも、縛り付けるようなこともしない。
ただ一つ、この家にいる間の条件として、同じ布団で寝てほしいと言われた。
本当に、ただ添い寝するだけ。
嫌ならいいと言われたが、養ってもらってそんなこと口が裂けても言えなかった。
拾ってもらった次の日から、俺は添い寝を続けている。
男は、ときたま寝呆けて、俺を強く抱き締め、キスをしようとして‥我に返ったように謝りながら腕を解くのだ。
俺を誰かと間違えているのかと聞いたことがあったが、急に男は不機嫌になって、これは聞いちゃいけないことなんだと学習した。

名前は知らない。
俺も教えていない。
言おうとしたら、愛着が湧くから教えてくれなくていいと言われてしまった。
愛着を持ってくれてもいいのに…。
「…はぁ。」
何度目か分からないため息を漏らす。
真っ白い天井。
片付けられた寝室。
俺は男のことをこの部屋以外、何も知らない。
名前、仕事、年、好み…

知らなくてもいいことなんだろうが、どうにもこうにも気になって仕方ない。

なんで俺を拾ったのか。
なんでメリットもないのに、俺を養うのか。
俺を誰と間違えてるのか。

枕元に手を伸ばし、煙草を銜えた。
もう、考えたって無駄だ。
結局、本人に聞かなければでない答えなんだから。
「う〜‥焦れッてぇなぁ‥」
煙草を折り曲げ俺は唸るように呟いた。
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