出荷済み。第2便

□大切な忘れもの。
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昔の人の言葉には的を得た表現が多い。

ことわざや年寄りの言葉は何度も俺を感心させた。

ときにそんな先代の方々に聞いてみたいのだが
“虫の知らせ”ってのは、本当にあるんだろうか。

何かを感じ取れる人間と、何も感じられない人間との差は、どこなんだろう…。

普段の行いと言うのなら、俺は誰に抗議すればいいのだろうか…。









「やべぇ‥すっげぇ忘れてた。」

3時間程前に帰った男が、慌てて部屋に転がり込んできた。

「なにを?お前なんか持ってきてたっけ?」

座布団を引っ繰り返す。

「エリカちゃんのグラビアは先週返したぜ?」

「ああ、あれじゃねぇんだよ。」

男がゆっくりと俺に近づく。

「じゃあなんだよ。」

人が一生懸命探してやってるのに自分は余裕に笑みなんか浮かべやがって腹が立つ。

「テメェの飯食ってくの忘れた。」

「は?お前忘れたんじゃなくて、いらねぇって言ったじゃねぇか。もう食っちまったぞ。」

何考えてんだこの男は。

「何でもいいから作ってくんねぇか?」

「なんでもいいって…本当になんもねぇぞ?」

こいつに何か食べたいと言われると断れない。

「本当になんでもいいんだ。」

「…じゃあ…ちょっと待て。確か乾麺があったと思うから‥」

なんでこんなにこの男に甘くしてしまうのか。
俺は重い腰をあげた。

うどんの麺をゆで、あり合わせの野菜をだし汁にぶち込む。
それはそれそれで一品になるから不思議だ。

「ほら、熱いぞ。肉入ってねぇけど我慢しろよ。」

「いただきます。」

男が手を合わせる。

旨そうに食ってくれるから、俺はこいつが食べる姿が意外と好きだったりする。


「やべぇ、時間ねぇ…!」

そう言いながらも、汁まで完食。

「ごちそうさまでした。」

「はい、御粗末様でした。」

片付けようとどんぶりに手を伸ばすと、その手を取られた。

「…なんだよ。急いでんなら早く行けよ。」

心臓がビクリとしたことには悟られないように、平静を装う。

「忘れもん、まだあんだ。」

男が笑顔を作る。
手を握り締めたまま。

「なんだよ。デザートは出ねぇぞ。」

「…いや、お前のこと。」


「…は?」

頭おかしくなったのか?こいつ…


「お前とずっと一緒にいたい。…俺、お前にずっと言いそびれてたけど、お前のこと好きだった。」
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