出荷済み。第2便

□刺。
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刺が刺さった。
小さな小さな黒い点。
それが段々と大きく太くなって、いつしか心臓を突き破るってこと、俺は知っている。


「いって…」

新校舎が建てられ、使われることのなくなったおんぼろ校舎。
そこに忍び込んで煙草を吸うのが好きだった。
古い木造だから、トゲが刺さるなんてしょっちゅう。

「お前は鍛練が足んねぇんだよ。」
そんなことを言いながらも、心配してくれるお前がいるこの場所が好きだった。

「あのなぁ…木の刺跳ね返すような分厚い指の皮の持ち主にちんこ擦られても気持ち良くなんかねぇだろ」

馬鹿にしたように笑う俺から、奴は煙草を奪ってキスをする。

「お前の手ならどんなんだって気持ちいい。」

刺が刺さった。
深く深く、見えないところまで。
刺さったのは、多分もっと昔。
その傷に気付かないフリをしてただけ。

「…何してんだよ、お前‥」
「キスだよ。嫌か?」

真っすぐに見つめてくるその眼が刺を大きくしていく。
「…っ‥」
「お前といるとちんこ擦り合うだけじゃ満足できなくなんだよ。」

ああ、傷口が痛い。
刺が一気に太くなる。
刺が心臓を突き破るのも時間の問題なんだろうかと考える。

「…お前、俺のこと好きなのか?」
「…お前は違うのかよ。」

時間の問題どころの騒ぎじゃないようだ。
「…好きだよ、馬鹿。」
「なら問題ねぇな。」

またキスされる。
嬉しそうに笑うお前に、俺の傷口は抉られるばかり。

「……刺、痛い。」
「抜いてやるよ。」
男が俺の指先を舐める。
チリっと鈍い痛みが走り、お前は唾を吐き出す。

「おら、抜けたぜ?」
俺は小さく首を振る。

「…刺、痛い。」

お前が刺したトゲは、今でも俺に痛みを与え続けているよ。
この痛みがお前にもあればいい。



終。
 

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