†混沌†

□幻想という名の希望と現実
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幻想という名の希望と現実







胸騒ぎとともに眠りについた夜


嫌な予感が抜けなくて再び目覚めるといつの間にかじっとりと汗をかいている



「‥ッ何なんだ一体」



何度も寝ようと試みてやっと寝始めたものの、うなされて浅い眠りを貪っていた















そして突然

夜更けに目が覚めた











「なぜ‥」



涙が止まらない




とても悲しい夢を見ていた気がする

だけど内容なんて覚えていない


胸がとにかく苦しかった…










その朝


珍しく鳴り出した電話


嫌な予感がして息を飲んで出る

予感は現実のものとなった






「はい。マスタングです」


ロイは出たものの、応答のない相手にしびれを切らす













「もしもし?切りますよ?」









「兄さんが‥」


受話器を置こうかと思ったが、ロイは声の主がアルだと分かると息をのむ








「‥…


兄さんが死んでしまいました…」











力が抜け受話器は重力に従って落下していく





そして自分の膝が折れ床につく







ぜ?





国家錬金術師の彼は私よりも先に戦場に駆り出された?



敵の銃弾が彼の身体を貫いたという











…あぁ!!

これが夢だったら良かったのに!!


浮かんでいるのは彼の明るい笑顔








あの太陽のように眩しい君はもうこの世にいないなんて…





彼に好きだと言われ、死ぬ程嬉しかったくせに、自分が先に死ぬだろうと予想した私は



彼に気持ちを伝えなかった


嘘をついた







彼を戦地へ送ったんだ

私もすぐに行くつもりだった

私の方が彼を愛していたのに‥





彼の心は母親を人体錬成した苦しみと弟も犠牲にしてしまった罪悪感を背負ったまま逝ってしまった



目的も果たせずに



そして彼は想いが告げられなかった私に消えない傷跡を残した





私のしたことは何だったんだ…












あぁ‥私が代わりに星になれたら良いのに








「じゃあな‥大佐」


彼の幻影が見える

変な目で見るなよというように彼は笑う






もう2度と会えない場所へ行ったんだ

私が彼との永遠の別れの冷たさも受け止められずにいるのに…


彼の声が聞こえてくる




ねぇロイ?




聞かせて欲しかったよ



嘘で構わないから







アンタが少しでもオレといた日々を悔やんだりしてないんだって




一度で良いから言って欲しかった


「愛してる」って













*********





終わりなきはずの悲しみはすぐに幕を閉じた


彼の葬式で私は彼の遺体を初めてみた


そんな姿の彼を見るのは辛くて苦しい‥








死顔はとても穏やかで、今にも生き返ってきそうだ



人体錬成の構築式を考えてしまう自分が嫌だ


それでは彼が死んだ事になるじゃないか








おかしな自分に笑い頬には涙が溢れた










君を失って初めて君の存在が酸素以上に私を動かしていたことに気付いたよ






それから季節は変わった









北の寒さはやけに身に染みる



こんなところにいる原因


‥あれは忘れもしない夏の始まりの日



私の代わりに今年は空や地上が血の涙で泣き続けた










どうしてこんな戦乱になってしまったのか?


君が望んだ世界はこんなものでは無かったは
ずだ










私では力不足だった




だから平和で穏やかな世界に出来なかったんだ





「マスタング大佐ッ!!」


北だけではない


「戦場での気の緩みは命取りになる」




自分で彼に言ったことがよみがえる








馬鹿だよな



こんな私を君は笑うだろうか


「大佐ッ!!あんたは生きなきゃダメだ!!」


そうやって最後の最後まで





君は…


私の事なんだな



私は泣く事さえも出来ないまま

この世を去るのだろうか?




さよなら



もう2度とは会えない場所へ行った君を追いかける事が出来るだろうか?

どんどん冷たくなる体に別れの冷たさも嫌ってほど思い知らされる





あぁ‥




君から聞かせて欲しかった

嘘で構わないから








君が確かに私を愛していた‥と


たった一度で良いから



「大佐!!大佐!!
起きろよ馬鹿ロイ!!」









どうしてそうやって最後の最後まで君は私を呼ぶんだ







泣く事さえもできないまま




さよなら


愛しいエドワード







「‥エド‥‥‥愛‥して‥…る」
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